マネら印象派巨匠の珠玉名作60点

都美術館で「コートールド美術館展~魅惑の印象派」

  「コートールド美術館展」が、東京都美術館(東京・上野)で開催中。印象派とポスト印象派の世界最高レベルのコレクションの中から、珠玉の名作約60点が展示されている。コートールド美術館が改修工事中で、一挙来日の貴重な機会だ。「ハプスブルク展」(アーツ・ワールド、前回紹介)と並ぶ豪華で魅力あふれる美術展。

■「当時は評価いまひとつの印象派作品群を中心に

出口に設けられた撮影スポットで、コートールドの在りし日のサロンをしのぶことができる

 コートールド美術館は、ロンドン大学に付属するコートールド美術研究所のミュージアム。イギリスの実業家サミュエル・コートールド(1876~1947)によって印象派、ポスト印象派の作品を中心に収集された。1920年代、英国内では印象派に対して必ずしも評価は高くなかった。レーヨンの製造、取引で巨額の財を築いたコートールドは、10年余りの間に印象派の作品群を次々と購入、一大コレクションを作り上げた。名作収集の実績とともに、コートールドの審美眼も高く評価されている。

■女性バーテンダーの独特のムード…

 《フォリー=ベルジュールのバー》は、「印象派の父」と呼ばれるエドゥアール・マネ(1832~1883)が、梅毒性壊死の足の手術で亡くなる前年の1882年、50歳の時の作品でサロン・ド・パリに出品された。バーの鏡の前に立つ女性バーテンダーを中央に、鏡に映り込んだミュージックホールの様子を描いた独特な風景と雰囲気を醸し出す。
 この頃、マネは体調を崩しがちで療養と制作を繰り返す日々だった。痛む足を引きずりながら、ミュージックホールまで通い、この大作に打ち込んだ。写真が開発される前は、写実が絵画の第一要素でもあったが、その解放を始めたのが、マネの制作意欲だったと言われる。
 フランスの詩人で評論家のボードレール(1821~1867)の影響もあり、悪の中に美を見出す傾向が《草上の昼食》や《オランピア》(ともにオルセー美術館蔵)を生んだ。「芸術は、生命の記憶でなければならない」とマネは考えていたので、現実の様子を工夫してイリュージョンを画面に起こす絵画を実践した。

ルノワールやゴーギャンの話題作も

 ピエール・オーギュスト・ルノワール(1841~1919)の《桟敷席》は、人物画として評価の高い作品。当時の上流階級の社交場であった劇場のボックス席の男女2人が描かれている。高級感あふれる女性のドレスと後ろの紳士は、オペラグラスで、周囲の観察に余念がない様子。
 同時に、ポール・ゴーギャン(1848~1903)の《ネヴァーモア》と《テ・レリオア》も注目される。コートールドが、ポスト印象派の作品の中から、最初に購入したのが《ネヴァーモア》と言われる。ゴーギャンの作品は、西洋的な文明化への批判精神が強く、想像を交えた原始的な作品が多いと評される。モチーフを追って行っても簡単に解釈できないケースもあり、深みがあり、彼の夢と憧れが強く表れている。  
 これらの作品以外でも、ポール・セザンヌ(1839~1906)の《カード遊びをする人々》、《キューピッドの石膏像のある静物》、エドガー・ドガ(1834~1917)の《舞台上の二人の踊り子》など、代表作が多数出展されている。総じて、本コレクションは、超一流のセザンヌ・コレクションも有し、興味深い彫刻作品も含まれている。各作家の個性が光る、秀逸な作品群の総体として、やはり一度は押さえておくべき展示で、コージーさが、その鑑賞後には胸に去来することだろう。  (陶)

  • 会 期: 12月15日(日)まで開催中
  • 休館日: 月曜日〔ただし1月13日(月・祝)は開館〕と12月28日(土)~1月1日(水・祝)、
    1月14日(火)
  • 開 館: 9:30~17:30〔金曜日は午後8時まで〕*入館は閉館30分前まで
    *金曜日は午後8時まで*入室は閉室の30分前まで
  • 入館料: 1,600円〔学生とシルバー割引あり(要証明)中学生以下無料〕
  • アクセス:JR上野駅下車(公園口)徒歩7分
  • 問い合わせ:03-5777-8600 (ハローダイヤル)