ルノワールの傑作《ピアノを弾く少女たち》そろい踏み

横浜美術館開館30周年記念

オランジュリー美術館蔵「ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」展

 「ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」展が、横浜美術館で開かれている。同美術館開館30周年を記念した特別展。オーギュスト・ルノワー(1841~1919)の有名な「ピアノを弾く少女たち」を代表格に、オランジュリー美術館コレクションから印象派を中心にフランス近代絵画の名作約70点が出品されている。

アンリ・ルソー《婚礼》1905年頃、油彩・カンヴァス、163×114cm オランジュリー美術館蔵
Photo © RMN-Grand Palais (musée de l’Orangerie) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

■ギョームのコレクション、世界を魅了

 オランジュリー美術館は、パリの中心部テュイルリー公園の敷地内に建っている。クロード・モネ(1840~1926)の大作「睡蓮」が展示されているが、ポール・ギョーム(1891~1934)のコレクションも有名だ。P.ギョームは自動車整備工から転身した異才の画商。パリで若くして美術作家、芸術家、評論家たちと交流し、当時、無名だったアンリ・マティス (1869~1954) やパブロ・ピカソ(1881~1973)の作品も扱っている。
  世界で初めてアフリカン・アートの展覧会を開催した一人で、多くの芸術家に影響を与えた。さらに、アメディオ・モディリアーニ(1884~1920)らエコール・ド・パリの画家たちも積極的に支援したという。芸術の都・パリの華やかさの中で画商として充実した活動をし、叙勲も受け、大成功した。彼のコレクションは、今やヨーロッパ屈指の美術館に収められている。

■ ルノワールもお気に入りの名作

 今回の展示の中心であるルノワールの《ピアノを弾く少女たち》は1892年頃の作品といわれ、2人の少女がピアノに夢中になっている当時の画家が好んで描いたとされるエレガントなシーンを、見事な色彩感覚で描ききった。ルノワールお気に入りの作品とされている。現在分かっているだけでも、ルノワールによるピアノ演奏の作品は6つある。

■モディリアーニの《アントニオ》など

 モディリアーニの《アントニオ》は、色調はもちろん、構成力も高度で素晴らしい。是非、じっくりと作品に向き合って、その語りかける声に耳を傾けてほしい。ルノワールの《桟敷席の花束》は、パリの晩秋から冬のバラを描いており、微妙なトーンで、花芯までしっかりと巻き込まれた花の様子が絶妙に表現され、座席に届けられた女性の恋の駆け引きまでも伝わってくるようである。

■妻ドメニカのお気に入りアンドレ・ドラン

 今展では、アンドレ・ドラン(1880~1954)が13点も出品されている。ポールの未亡人・ドメニカがお気に入りだったそうだ。彼女の意向でコレクションが変化している点は、寂しいと思う人もいるようだが、売り払われた後に残った、今展のマティスは高く評価したい。
  前半の展示のポール・セザンヌ(1893~1906)は、「自然と人間の調和」という悠久のテーマに取り組んだ《小舟と水浴する人々》では、柔らかさが感じられ、画家の創意工夫と熱意が伝わってくる。同コーナーでは、「リンゴで世の中を席巻してみせる」と息巻いていたという、そのモチーフ、セザンヌのリンゴの描き方をじっくりと鑑賞できる点も嬉しい。

■アンリ・マティスの花の詩情

 未亡人ドミニカにより残された、マティスの作品群は、花模様の壁が織りなす、平面的構成と花瓶の花がささやかでありながら、部屋に溶け込んだアクセントなどの豊かなハーモニーが美しい。それぞれの花の美しい色調とマティス独特の詩情あふれる存在感が見る者に訴えかけてくる。今展の作品は、特にフランスをまざまざと感じさせる色調で、マティスのフォーヴの典型とはやや異なる点が感じられる 。

■大画面、小画面と楽しみなアンリ・ルソー作品

 今展のアンリ・ルソー(1844~1910)作品は、どれも魅力的なものばかりで、ルソーのファンには、是非チェックしてもらいたい。彼の作品は、絵画やモデル、世界への画家の愛が伝わってきて、とても温かい気持ちに包まれる。ルソーは、小さい筆の点描で大画面に臨み、「一番、一生懸命描いた画家」と、当時画家仲間の間で評判だったという。

■マリー・ローランサンとココ・シャネル

 ルノワール、ルソー、マティス、ピカソ、モディリアーニの作品は、魅力的なものがそろっている。中でも、マリー・ローランサン(1883~1956)とドランが充実しているが、ローランサンの《マドモワゼル・シャネルの肖像》では、ココ・シャネル(1883~1971)が受け取りを拒否し、それに対し、画家は「田舎娘」と、一蹴したというエピソードに象徴される二人の気の強さが印象的だ。一方、会場では、パトロネーゼのギョームの妻・ドミニカを花で飾り、しっかりと描きこまれた作品も同時に目につく。
  マティスの《赤いキュロットのオダリスク》、ピカソの《布を纏(まと)う裸婦》、シャイム・スーティン(1893~1943)の《小さな菓子職人》など、ギョームが発掘・支援した作品の逸品も鑑賞できる。  (陶)

  • 会 期: 2020年1月13日(日)まで開催中
  • 休館日: 木曜日〔ただし12月26日は開館〕12月28日(土)~1月2日(木)
  • 開 館: 10:00~18:00 
    *会期中の金・土曜日は20:00まで〔ただし、 1月10日~12日は21:00まで 〕
    *入館は閉館の30分前まで
  • 入館料: 1,700円〔学生割引、シルバー割引あり(要証明)小学生以下無料12月21日(土)~25日(水)は高校生以下無料 〕
  • アクセス:JR桜木町駅下車(歩く歩道)徒歩10分
  • 問い合わせ:045-221-0300(代) 10:00~18:00(木曜日休館)