「琳派と印象派」アーティゾンなど注目
コロナ・シフト下で少なからぬ混乱を招いた美術展示イベントは、年末に向けて展示状況に一定の安定、慣れが出てきた。来館者らにも、この特殊な現状に理解・協力が進んでいる。 各施設とも展示に際して「3密」を避けるため、日時指定の事前予約制導入や、入場時の制限、さらに感染予防のマスク着用、検温励行などを実施している。インターネットなどで、休館期間、企画展の会期変更についての広報、インフォメーションも徹底、効果も上がってきている。
一方、作品展示やイベントでは、各館とも苦労している状況がうかがえる。従来のように大型スポンサーの持ち込み企画がなくなり、美術館独自の企画力が問われる時機に入った。館ごとの企画の特色、独自カラーが色濃く出て、芸術愛好家らの楽しみにもなっている。
さらに、大手美術館の中には創設時からの膨大なコレクションを展示しているところもある、いわゆる“蔵出し作品”を鑑賞できるのも愛好家等の関心を集めている。
■ 「敦煌写経と永樂陶磁」

三井記念美術館(東京・中央区日本橋室町)は、従来から仏教美術系の作品展示を特色の一つとしてきたが、今回の「敦煌写経と永樂陶磁」は、その流れをくむものだろう。当初、秋季特別展として「奈良・飛鳥の仏教美術」が予定されていたが、館所蔵作品による企画展に切り換えた。
「敦煌写経」は、中国・敦煌出土の仏教経典史料として、また書芸術の貴重な作品として注目されている。「永樂陶磁」は三井家に伝わる永樂保全(えいらくほぜん・1795〜1854)制作による茶器の代表作を展示している。(〜11月8日まで展示。予約不要、写真=ポスター)
■「琳派と印象派」、国宝も展示
「琳派と印象派」が、アーティゾン・ミュージアム(旧ブリヂストン美術館、同区京橋)で開かれる。サブタイトルに「東西都市文化が生んだ美術」とあるように、日本とヨーロッパという東西の都市文化の中で活躍した画家たちの作品を、大胆な視点でアプローチする美術展。
「琳派」は17〜18世紀に俵屋宗達、尾形光琳らによって町人文化を代表する形で生まれ発展してきた。一方、「印象派」は19世紀後半にフランス・パリ中心にドガ、ルノワール、マネ、モネ、セザンヌらによるヨーロッパ近代美術の制作に活動。
展示の中で注目されるのは俵屋宗達「風神雷神図屏風」(国宝、後期のみ展示)。その迫力に圧倒されるが、屏風という限定画面の中での見事な構図バランスも見ることができる。またクロード・モネ「睡蓮の池」やカミーユ・ピサロ「ポン=ヌフ」など有名作品を鑑賞できる。(2020.11.14〜2021.1.24)本展は前期後期に分かれ、展示替えがある。
■ロートレックのグラフィク・アートも
三菱一号館美術館(同千代田区丸の内)では「1894visionルドン、ロートレック展」が開かれている(〜2021.1.17、写真=ポスター)。
三菱一号館が落成した1894年を時代軸にして、オディロン・ルドン(1840〜1916)と、トゥルーズ=ロートレック(1864〜1901)の作品を紹介。ルドンは石版画で有名だが木炭画、パステルや油彩画も制作。油彩画「神秘的な対話」など紹介。 ロートレックの日本人愛好家は多い。ムーラン・ルージュを中心に当時のショーダンスをはじめ、パリのモンマルトルの風景などを描いた。画家としてだけではなくグラフィック・アーティストとしても秀作を残した。今回はキャバレーと、そこで働く人々を描いた作品も展示された。

このほかにも東京国立博物館(台東区上野公園)での特別展「桃山―天下人の100年」(〜11.29)や、東京ステーションギャラリー(JR東京駅丸の内駅舎内)「もうひとつの江戸絵画 大津絵」(〜11.8)などユニークな美術展もあり、それぞれの愛好家、研究者には魅力ある作品展示となっている。