企業理念の浸透、人材育成に尽力


武田薬品工業によるシャイア-(アイルランド)の6兆8000億円に上る巨額買収で、製薬業界のみならず世界中の関心を集めたが、ほぼ同時期、塩野義製薬・手代木功(てしろぎ・いさお)社長(59)の記者会見が11月21日、東京・千代田区内幸町の日本記者クラブで行われた。同記者クラブ主催。企画シリーズ「チェンジ・メーカーズに聞く」として登壇した。このシリーズは、変革期の経営動向中心に、現在活躍中で注目される実績をあげている経営トップたちに話を聞くもの。今回が28回目。

■「シオノギの挑戦」を語る

手代木社長は1982年に東京大学薬学部を卒業、塩野義製薬(本社・大阪)に入社、開発部門に配属された。駐米経験を2度、取締役経営企画部長、常務執行役員、医薬研究開発本部長などを経て2008年、創業家の塩野元三前社長(現会長)の指名を受け48歳で社長就任。同社は現在、売上高で中堅だが、売上高営業利益率は3割を超え、製薬業界の中では優良企業として関心を集めている。

 同日の手代木社長の解説は、「シオノギの挑戦」として、経営戦略の課題、企業理念の社内浸透、幅広い人材育成などについて具体的に語った。シオノギは1985年に国内3位の売上高をあげていたが、2010年には10位にまでダウンしてしまった。このような状況下、若手社長の手腕が注目されていた。

 ■収益基盤安定へ感染症薬などに

 「シオノギの挑戦」として<転換期(Ⅰ)「学び」(2008~11年)><転換期(Ⅱ)「自信と誇り」(2012~16年)><転換期(Ⅲ)「慢心からReborn」(2016年後半)>のステージを設定、理念と課題を的確に把握し、収益基盤の安定・確保に努めてきた。

 過去の実績にこだわりがちだった社員の意識改革や、人材教育に力を入れた。企業理念を浸透させるため、社員に3カ月に1回、400字詰め20枚ぐらいの「社長メッセージ」を送った。それについて社員との直接対話の場を設けたり、メディアへの露出も行ったりしたものの、当初、反応は鈍かったが、次第に読まれ、反応が出てくるようになった。さらに社員との対話を通じ、全社的なコミュニケーションも実りつつある。

 アメリカの製薬企業の買収がうまくいかず、高脂血症薬の特許切れなどもあって経営に少なからず影響が出たが、感染症薬などの分野に特化するなどの経営方針を打ち出し、高収益への道を切り拓いていった。

 ■グループ全体での人材育成

 また、人材教育の面で注目されているのは、2012年度から始まった「社長塾」。全バリューチェーンから次世代組織の候補者らを対象に年7~9日開講しており、創薬型製薬企業として成長するための全社的視点を持ってもらうというもの。グループ会社でのマネジメント経験を通して経営幹部をしっかり養成している。

 手代木社長は、現在、日本製薬団体連合会会長、大阪商工会議所副会頭も務める。