2025年問題の処方箋(5)

薬機法改正に2つのハードル

ジャーナリスト 楢原 多計志

医薬品医療機器法(薬機法)改正案が国会に提出された。臨床データ改ざんや誇大広告などへの罰則強化、薬局の機能分化などが盛り込まれた。だが、安倍政権は参議選挙や消費税率引き上げの環境づくりに追われ、政権内では政策達成への関心が薄らでいるという。会期内に成立するのか、患者にメリットがあるのか。薬機法改正には高いハードルが待ち構えている。

不正の抑止力に

薬機法改正案の柱は①医薬品のデータを改ざんしたり、誇大広告で販売したりした製薬会社から課徴金を徴収する(課徴金制度)②薬局を「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局」に機能分化し、地域包括ケアシステムと専門的調剤能力を高める─の2つ。

課徴金制度は、ノバルティスファーマ日本法人による論文データ改ざん事件が導入のきっかけ。施行されると、データ改ざんや誇大広告が判明した場合、厚労省は製薬会社に対して対象期間中の売上額の4.5%の課徴金を課すことができるようになる。単純計算だが、売上額100億円の医薬品の課徴金は4億5千万円。同時に品質管理や安全性に法令違反があった場合、製薬会社に責任役員の変更を命じることもできるようになる。経営的な打撃を与えることで不正を抑止力しようというのが狙いだという。

現行制度に罰則規定はあるが、データ改ざんや誇大広告が判明する前に、大量に売り上げてしまえば、結果的に”やり得”になっていた。日本の有力メーカーも改ざんや誇大広告が問題になった。厚労省の中央社会保険医療協議会(中医協)の審議で課徴金制度導入そのものに異論は出なかったのは、こうした製薬会社の企業体質への批判があったからだ。

地域包括ケアの一環

薬局の機能分化は、機能や役割に応じた新名称を創設し、患者が自分の病状に適した医薬品を使えるようにすることが狙い─と厚労省は説明している。

「地域連携薬局」は、高血圧や脂質異常などの慢性疾患や退院後の療養に必要な医薬品の調剤や服薬指導を行う。一方、「専門医療機関連携薬局」は、特定機能病院などの専門医療機関と連携してがんや心臓疾患などの患者について一元的に薬学管理する。いずれも厚労省が掲げる地域包括ケアシステム(在宅医療や在宅介護など)構築の一環であり、薬局の申請を受けて都道府県知事が認定する。

患者そっちのけ

改正にはハードルがある。1つは成立の見通しだ。与野党とも改正案を重要法案とみなさず、法案審議の優先度が低い。国会の会期は6月26日まで。7月の参院選を控え、与党内に強行採決や会期延長の意気込みは感じられない。継続審議を予想する与党議員もいる。

もう1つは、患者のメリット。データ改ざんや誇大広告などは第三者機関が認定するが、製薬会社から反論が出れば、結論が出るまでに相当な時間がかかることは必定。その間、服薬中の患者はどうなるのか。また患者は「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局」の使い分けができるのかどうか─も課題の1つ。

本来、薬剤師は患者のために何種類もの多剤服薬をやめさせたり、後発医薬品に切り替えを勧めたり、医師の処方せんをチェックしたりする役割が求められている。だが、経営上のデメリットを嫌い、役割を果たさない薬局経営者と薬剤師が少なくない。

データを改ざんしてまで販売合戦を勝ち抜こうという製薬会社、本来の専門性を発揮できない(発揮しようとしない)薬局経営者と薬剤師、小手先の見直しで手っ取り早く医療費の伸びを抑え込もうという厚労省、患者そっちのけの制度いじりはいつまで続くのか。