医薬品の「不適切広告」で、製薬協にコード遵守促す 厚労省

ジャーナリスト 楢原 多計志

高い倫理観が求められる製薬業界にあってはならない─。5月23日、日本製薬工業協会(製薬協、会長・中山壤治第一三共会長、72社)の田中徳雄常務理事は、記者会見の席上、厚生労働省から指摘された「医薬品の不適切広告」について、会員各社に製薬協コードの遵守を徹底するよう促した。競争激化が続く医薬品業界では、強い緊張感をもって対応に取り組み始めている。

■エビデンスのない説明…。厚労省が公表、指摘

5月17日、厚労省の医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課は「2018年度医療用医薬品の広告活動監視モニター事業報告書」を公表した。モニタリング期間8カ月の間に把握した疑義報告は医薬品数で64件、このうち延べ45件に広告違反の疑いがあり、項目数では同74件となり、指導の対象とされた。

 問題は、違反が疑われた項目の中で「エビデンス(科学的な根拠)のない説明を行った」が最も多い11件にも上ったこと。事例では、逆流性食道炎の治療薬について担当者が医師に対して「異なる規格の製剤の情報を基にエビデンスに基づかない説明を行った」(報告書の抜粋)が挙げられた。

具体的には、当該薬の審査報告書には10mg製剤について1日2回から1日1回への減量についてだけしか記載されておらず、5mg製剤は販売されていないにもかかわらず、担当者は医師に「医師の判断で減量ができるので5mg製剤も使用可能だ」と説明したという。

規格外の投与によって患者の容体が急変する場合もあり、エビデンスに基づかない安易な医薬品の使用は危険であり、処方はもちろんのこと、医薬品商取引であっても絶対にやってはならないケースだ。

■「手抜き試験」では…との指摘も

また「データやグラフの恣意的な抜粋・加工・強調・見せ方等を行った」として脂質異常症治療薬の事例が示された。プレゼンテーション用スライドで3群を比較する試験結果について、1、2群の結果をグラフで紹介していたものの、3群については触れず、「本剤を増量して使用しても効果に大きな差異はみられない」と結論付けていた。これでは「手抜き試験」との指摘も出てくる。

このほかにも、一定期間の投与間隔を置くべきパーキンソン病治療薬について「間隔に明確にエビデンスはなく、短縮しても保険の査定の対象にはならない」と説明したり、他社のバイオシミラー(バイオ医薬品の後続薬)を「効果は疑問」などと批判、中傷したりして自社の医薬品を売り込んでいたケースも。

不適切広告の背景には、公的医療保険の厳格化によって医療用医薬品市場が縮小し、製薬会社間の販売競争がますます激烈になっていることがある。18年度の国内医療用医薬品売上額は約10兆3千億円(薬価ベース)とみられ、前年度より1.8%減った。超高額医薬品の販売が話題となる一方で、市場自体は縮小している。大手製薬会社は海外販売に活路を見出そうとしたり、画期的な創薬を狙って海外メーカー買収に乗り出している。

田中常務理事は「不適切事例がなくならなかったこと自体が非常に残念であり、誠に遺憾だ。指摘されなかった会員各社も報告書を精査して点検していただきたい」などと反と注意をうながした。製薬協はこれまでに「製薬協コード」の遵守を促す通知を出すなど、業界として主体的な早期取り組みに一定の実績を積み上げており、今後の対応が注目される。