「かんぽ不正」「関西電力」などに鋭い批判

2019年「経営倫理動向・ワースト10」発表

 2019年「経営倫理動向調査アンケート」がまとまった。この結果、企業不祥事の年間状況が明確になり、いわゆる「ワースト10」が判明する。
 毎年、報道機関を中心に、多様なジャンルで年末アンケートが実施され、翌年発表されている。各界のビッグニュースや年間回顧物中心としたいわゆる「ベスト10」型だが、産業・文化等の動向を知る貴重な資料となっている。これらの中で、ACBEEの「ワースト10」アンケートとその分析・評価は、企業不祥事研究の基礎資料として信用性が高い。本調査は年1回型、今回で10回目。連続して10年継続。調査対象を経営倫理士という専門家集団に絞った独自調査が特色。

本資料は、以下の方式で調査、集計された。
・調査対象時期:2019年1~12月
・調査対象者:経営倫理士。全資格者約700人中から100人を無作為に抽出。
・調査実施時期:1月中旬から約20日間。
・回答方式:アンケート記入方式。EメールまたはFAXで回答。対象年の不祥事中、注目した事例3つを選び、①選んだ理由、②その防止策を記述。
・回答状況:調査実施10年間で、30%台の回答率。
・特色:①各年のコンプライアンス動向と分析、②発生原因と背景、③事後対応等―について踏み込んだ回答が寄せられ、今後の再発防止策などに効果的なアドバイス、意見が出されている。

表:2019年・経営倫理重要ニュース 回答件数上位11件

順位   組織名・企業名      内 容回答数
1かんぽ、ゆうちょ、日本郵政グループによる不適切販売34
2関西電力役職員の多額の金品受領30
3神奈川県、富士通リース、ブロードリンク 廃棄HDD不正転売 、それによる情報漏洩16
4神戸市立東須磨小学校教諭間のパワハラ、いじめ14
5日産自動車ゴーン問題はじめガバナンス体制の不備11
6吉本興業所属タレントの反社会的勢力との接触、闇営業10
7リクルートキャリア内定辞退率予測の不適切販売8
7厚生労働省毎月勤労統計調査の不正8
7メディセオなど病院用医薬品の談合容疑8
10セブン-イレブン残業代の一部未払いなど7
10三菱電機自殺教唆など7

 2019年「ワースト10」の中で①「かんぽ、ゆうちょ、郵政不祥事」、②「関西電力の金品受領」、③「神奈川県の廃棄HDD不正転売」がワースト3となった。3位と次点(4位)の「神戸市立小の教諭いじめ」とは2票差で接近している。5位以下でも指摘数はいずれも少差で競り合い状況となっている。さらに分析を進めると③「神奈川県の廃棄HDD不正転売」、⑦「リクナビ内定辞退予測データ販売」のように情報関連不祥事への批判が多い。また④「神戸市立小の教諭いじめ」、⑩「三菱電機 パワハラ」など、職場でのハラスメント問題もクローズアップされているのが特色。

教員間のいじめに衝撃(神戸市立小)

 アンケート回答中の主なコメントは以下の通り。(文中カッコ内は、性別、年代、業種、役職)

▼かんぽ、ゆうちょ、日本郵政不祥事
 「高齢者を中心に被害が拡大したことは重大問題。非常に悪質」(男性、50代、食品、管理職)。「日本郵便という絶大な信頼を裏切る行為。1年間に何度も不祥事が発覚するのは、企業としての倫理観欠如が甚だしい」(男性、60代、製造、役員)。など、指摘は厳しい。
 一方、事後の対応については、「真の民営化を追求し体質改善を推進する」「トップの人事を誤ったことが原因だから、第三者的な立場の人材を充てる」など。

▼関西電力の金品受領
 「金額の規模が大きく、対象も拡がっていたこと。関西を代表する有力企業が起こした不祥事」(女性、30代、機械、担当者)。「企業トップが自治体幹部から7年間に渡り金品をもらっていたことは、通常では考えられない」(男性、50代、流通、管理職)。「入札が適正に行われ、電気料金が安くなっていた可能性もあり、公益性の高い企業のトップ、役員の倫理観が問われる」(男性、60代、製造、管理職)。
 防止策については、「幹部を含む社員の倫理観向上、企業の使命を浸透させる教育の実施。さらに内部通報制度と監査体制の強化」、また「社員一人一人の自覚と意識改革からまず始める」など。

▼神奈川県の廃棄HDD不正転売
 「機密情報を廃棄した、と安心したHDDから漏洩する怖さを痛感した」(男性、50代、流通、管理職)。「ブロードリンク社、富士通リース、神奈川県庁を結んだ不祥事で、情報管理のあり方を再度考えさせられたので選んだ」(男性、60代、製造、担当者)。など。
  対応策としては、「今回関与している3組織のいずれもが、情報管理や情報漏洩への認識が甘い。ここを重点に、監視体制の強化と教育の徹底を早期に実施すべき」といった提言が出された。

▼神戸市立小の教諭いじめ
 「パワハラがこれだけ注目される昨今、同僚からの、しかも教師間のいじめということは衝撃が大きかった」(女性、40代、小売り、担当者)。「これは教員間のいじめに留まらぬ暴行事件。小学校の対応もお粗末だったため選んだ」(女性、30代、機械、担当者)。などの強い批判、指摘が寄せられている。
 「教員という閉ざされた世界から広い世界を知るため、民間企業での研修を実施する」「(ハラスメント含む)コンプライアンス遵守教育の徹底」などの意見が出されている。

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