問われる「リスクコミュニケーション」
千賀 瑛一 日本経営倫理士協会専務理事
(日本記者クラブ会員)
政府は新型コロナウイルス対応のため、新たに「分科会」を発足させ、6日初会合を開いた。分科会の名称は「新型コロナウイルス感染症対策分科会」。
2月に発足した専門家グループによる助言組織「専門家会議」を廃止し、特別措置法に基づいて新たに設置した。
この専門家会議の廃止、分科会の新設の方針は6月24日、西村康稔経済財政・再生相(コロナウイルス対策担当)から発表された。ほぼ同時刻に日本記者クラブで開かれていた専門家会議首脳による会見にぶつかる“同時会見”となり、少なからぬ波紋を呼んだ。
専門家会議としては最後となる同日の会見では、提言機関のあり方や組織見直しなどを提言していた。
■ 「廃止」という言葉、強すぎた…
ところが西村氏は、6月28日の会見で、専門家会議を廃止する方針発表について「十分説明できていなかった」と釈明した。「専門家会議の皆さんを排除するようにとらえられた…」とも話し、「廃止」という言葉が強すぎ反省していることを強調した。
専門家会議は2月に発足、特措法に基づく設置ではなかったことなどから、位置付けが不安定―とする声もあった。しかし、専門家会議は6月までの4ヶ月間、権限や責任があいまいなまま感染症についてその対策など積極的に提言、発信してきた。またメディア等への露出もあり、専門家会議の前のめり発言が牽制された、との見方もある。これらの状況の下、さらに西村氏の24日の「専門家会議廃止と新組織への移行」という発表には与党・公明党や野党からも反発する声が出ていた。
メディアの論調も、コロナ被害の拡大する中で疑念をいだかせるような動きをするのか―、提言組織としての専門家会議の4ヶ月間の活動に対する評価は高い―、政府は役割分担や決定権を強調したかったのでは―などが指摘された。
■ 医と経済の両立を基本として

新しい分科会の構成員は18人。専門家会議の副座長だった尾身茂・地域医療機能推進機構理事長が新分科会会長に就任すると共に旧専門家会議から計8人が移る。新たに感染症指定医療機関の医師や医療法人や保健所代表らが加わる。全国知事会でコロナ対策に関わっている平井伸治・鳥取県知事らも参加した。
西村担当大臣や尾身分科会長の会見では①感染拡大防止を推進②社会経済の活動―の両立を基本とする方針などが打ち出された。今後の分科会は、幅広い専門家グループによる効果的なリスクコミュニケーションが求められている。
今回の改編は、政府に対する提言組織のあり方に課題を投げた形だ。公衆衛生や感染症予防の専門的知識・見解を大胆に取り入れ、より敏速にコロナ対策に取り組むことこそが本来の目的。組織いじりだけにとらわれず、「政」と「医」の関係は、距離間に疑念をいだかせるようなことがあってはならない。