千賀 瑛一 日本経営倫理士協会専務理事
(日本記者クラブ会員)
新型コロナウイルスの検出が、昨年12月末に初めて中国政府から公表されてから10か月目に入る。世界の感染者数は3090万人を超え、死者は100万人に迫っている。発生源とされた湖北省武漢市の状況について中国政府の情報統制は厳しく現在でも確度の高い情報は少ない。
9月8日、日本記者クラブで「そのとき武漢は」のテーマで、現地駐在のイオン経営幹部2人のオンライン会見があった。

■77日間の封鎖、総合スーパーイオンは
武漢市は、1月23日から77日間封鎖されたが、総合スーパーのイオンは営業を続けて市民の「食」提供を中心に生活を支えた。今回、会見したのはイオンの杜若(かきつばた)政彦総経理(51)と、イオンモールの南慎一郎総経理(46)の2人。現在も武漢に留まり続けている。
会見では、現地スーパー経営の責任者としての立場から、封鎖期間中、店舗をはじめ現地従業員の協力ぶり、さらに市民の生活状況などが語られた。77日間のロック・ダウンは世界中から注目されたものの現地では情報が入手出来ず、不安が増大していた時期でもあった。主要メディアの報道も少なかった。
今回の会見では今まで伝わらなかった、当時の市民に直結したリアルなレポートととして注目された。
昨年12月31日に、漢口駅に近い海鮮食品市場で、多くの人が原因不明のウイルス性肺炎に感染したという情報が入った。そして情報統制が厳しくなり、都市封鎖が始まった。
杜若総経理ら2幹部は社長職として「商品の安定供給、営業継続の協力」を従業員に訴えた。
SNSを通じてのメッセージに従業員たちも即反応、積極的に協力、さらに数々のアイデアも出してくれた、という。
■ 従業員との協力関係を重視
南総経理は「中国ではマスク着用の習慣はなかったが、12月31日からマスク着用を呼びかけた。1月24日、市内の大型商業施設が営業停止となり、それ以降、イオンに客が集中するようになった」と初期段階の状況について報告。
また杜若総経理は「当初、市民の買い物は3日に1回、2時間のみに限定されていたが、間もなく一斉外出禁止になった。イオンは週1回の定休日を設け健康管理、店内で感染者を出さないことに最大限留意した」などと話した。
来店者には入店時の検温も導入、効果があった。ネットスーパーでセット商品販売も始めた。セットの内容は、食料品とその他の生活用品をまとめた。商品は区域やマンション毎に区分けして送り届けた。
都市封鎖が、さらに強化されて商品が急激に不足していく中で、武漢以外のイオングループから商品を調達した。輸送にあたっては、当局から許可をもらい厳しい検問を通過して武漢に入り、市民へ商品を提供できた、という。
キャッシュレスも効果を発揮した。従来から普及していたが、営業効率化などに大変役立ったことを強調していた。
■ 武漢市民のために尽くす使命感…
5月に入って、イオンモール武漢は再開したが「創業家の家訓である『上げに儲けるな、下げに儲ける』を実践した。この誠意が伝わり、武漢の人々の共感が得られた」と振り返っていた。
社長職としての立場・責任はあるものの、感染リスクの最も高い状況下で武漢市民のため尽くした使命感と、その実績は評価されている。


