大詰めの20年度の診療報酬改定論議

ジャーナリスト 楢原 多計志

国の予算編成を前に2020年度診療報酬改定をめぐる駆け引きが大詰めの激しさを増している。財務省や経済労働団体、保険者団体などの支払い側が財政事情を理由に「マイナス改定」を主張し、日本医師会(日医)などの診療側は「医療従事者の技術料や医療機関の経営実態に反映させるべきだ」として「プラス改定」を要求し、一歩も引かない構え。最終的に官邸主導で政治決着が図られる見通しだが、決着に必要な財源の多くが薬価差から調達される背景がある。このため製薬業界からは強い懸念の声がもれている。

国立、公立病院は赤字続き

11月13日、厚生労働省は中央社会保険医療協議会に「医療経済実態調査」の結果を報告した。調査は原則2年ごとに実施され、診療報酬改定の基礎データの1つになる。医療施設の開設者別、機能別などに分けて損益率(前回2018年度調査との比較)が示されている。

一般病院全体では▲2.7%で2年前より0.3㌽改善されたが、赤字基調は変わっていない。開設者別(100床当たりの損益)でみると、医療法人は2.8%(0.2㌽改善)、国立▲2.3%(0.2㌽悪化)、公立▲13.2%(0.2㌽悪化)などとなった。 

厚労省は「大きな変動は見られないものの、堅調な医療法人と比べ、国立、医療従事者が増えた公立病院は依然として赤字が続いている」と補足説明し、国立、公立病院に再編や経営の見直しを強く促すという。

花粉症薬を保険外に

関係団体は調査結果をどう受け止めているのか。支払い側と診療側では見解が全く異なる。財政制度等審議会財政制度分科会の委員(経済団体役員)は「全体的として病院や診療所などは黒字基調にあり、効率化や生産性向上によって経営は安定する」「2017年度に医療機関に支払われた医療費(概算)が42億6千万円に達し、国や地方自治体の財政事情や健康保険組合の運営実態をみても(診療報酬の)引き上げを認める状況にはない」とマイナス改定を主張している。

健保組合連合会(健保連)は「このままでは、22年には医療、介護、年金を合わせた保険料率が給与の30%を超える(22年危機)」としてマイナス改定のほか、花粉症治療薬などを保険適用から外すなどして医療費の伸びを抑えるよう求めている。

一方、日医の横倉義武会長は「前回改定(18年度改定)では診療報酬本体(薬価などを除いた医療行為の報酬)の水準は賃金や物価よりも低かった。医師や看護師、病院(勤務)薬剤師など、医療に携わる方の給与費を基本とすべきで本体の引き上げを求める」と強い決意を表している。

勤務医向けの「働き方改革」

改定には相応の財源が必要であり、不足が生じる場合、その財源をどこから捻出して充てるかが大きな課題だ。これまでの改定では、薬価の差額で不足分の大半を埋めてきた。医薬品の薬価基準(薬価)と実勢価格(市場価格)で差が出る。その差額を日医などが要求している診療報酬本体引き上げの財源の一部に充ててきた。

20年度改定も踏襲される見通しだが、外資系製薬会社の米国人役員は「本来、薬価の差額は製薬会社の新薬開発や患者への還元費用などに使うべきであり、医師の給与改善などに回すのは理屈に合っていない」とため息交じりに語った。

厚労省は20年度改定の視点として「医療従事者の負担を軽減し、医師などの働き方改革を推進すること」を重点課題に掲げている。審議会での説明によると、病院勤務医の長時間勤務を解消するため残業の上限を設けたり、デスクワークの一部などを事務職員に代行させたりして労働環境の改善に乗り出す病院を報酬で支援する」という。

だが、健保連や連合は「報酬で何を評価するのか、違和感がある」などと懐疑的かつ反対なのに対し、日医などは「医療事故の防止など医療の安全にも寄与する」と賛同し、意見が大きく分かれている。厚労省の「落としどころ」が注目されている。