ジャーナリスト 楢原 多計志
「医師の働き方改革」は成功するか
厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)は2月7日、20年度診療報酬改定を答申した。改定の大きな柱は「医師などの働き方改革」「医療機関の機能分化や再編」「患者負担の見直し」の3つ。それぞれの狙いと課題を3回に分けて整理する。初回(上)は長時間労働が慢性化している医師や看護師などの医療従事者の「働き方改革」について。
常態化した「残業100時間超」

救急医療現場などで働く勤務医や看護師らの過酷な労働実態は以前から指摘されてきた。月平均の残業時間が100時間を超える勤務医の過酷な勤務が常態化、仮眠を挟んで「2泊3日連続勤務」が半ばシフト化している救命救急医療センターさえ珍しくない。
厚労省は、2024年度開始(予定)の労働時間規制への備えもあり、20年度診療報酬改定の重要事項に「医師・医療従事者の働き方改革」を掲げた。
日本医師会などの診療側は取り組みの遅れを暗に認めたものの、「医療費抑制策が最大の要因だ」として国の社会保障費抑制策を批判する一方、財政的な裏付けを強く求めた。
昨年暮れ、厚労省は2020年度政府予算案をめぐる財務省との折衝で働き方改革の関連予算126億円(消費税活用)を確保。20年度改定に「働き方改革の推進分」として0.08%が医療本体改定0.47%に上乗せされることになった。
新加算で勤務医を救済
厚労省が20年改定の目玉に位置付けているのが、救急搬送を年間2000件以上受け入れている医療機関の入院基本料などに上乗せする「地域医療体制確保加算」(入院初日5200円算定)の創設。加算による増収を見込んで医療機関に長時間勤務を解消させることが狙いだ。
算定要件として、年間2000件以上の緊急搬送のほか、勤務医の負担軽減策や処遇などを明示した「医師労働時間短縮計画」を作成し、新設される評価機関の評価を受けること─などが盛り込まれた。
また搬送件数が年間1000件以上あり、専任看護師を複数配置している救急医療機関向けにも「救急搬送看護体制加算1」(4000円)を新設したり、負担軽減支援を「地域医療介護総合確保基金」(交付金制度)の対象に拡大したり、報酬による支援策を次々に打ち出している。
一歩前進か、検証待ちか
関係団体の反応はどうか─。答申直後の記者会見で、日本病院会の相澤孝夫会長は「救急医療に少し手当てがなされたと感じる」、全日本病院協会の猪口雄二会長も「働き方改革に資する手法を考えるチャンスになる」と、一歩前進と受け止めているようだ。
一方、支払い側(保険者側)の健康保険組合連合会の幸野庄司理事は「”財源ありき”の議論ではなく、病院のマネジメントや意識改革、アウトカム(評価)が必要ではないか」と審議の在り方そのものに注文を付け、「給付抑制が足りない」との不満を繰り返した。
課題も多い。新加算で医療機関は多少潤うが、勤務医などの長時間労働や業務量が実際に減るのかどうか、やはり実態調査を踏まえた第三者の検証が必要だ。
最も有効な解決策は勤務医や専任看護師を増員することだが、医療機関には現状の経営実態から不可能に近い。オンライン診療などICT(情報通信技術)の活用も、現状のままでは抜本的な解決につながりそうもない。「上乗せの加算ではなく、基本報酬の見直しこそ必要では」という疑問の声も出ている。