ジャーナリスト 楢原 多計志
病院の改革・再編なお道半ば
患者そっちのけ診療側と支払い側の対立
地域医療を支える病院や診療所の改革や再編について「2020年度診療報酬改定の取り組みが十分とは言い難い」(中央社会保険医療協議会の公益委員)という意見が少なくない外来、入院、かかりつけ医との連携をみると、実情が分かる。背景には、患者そっちのけとも言える診療側(医療提供者)と支払い側(保険者)側の根深い対立がある。
点数や上乗せも据え置きに
外来関連の改定をみると、健保連などの支払い側が引き下げを強く求めていた初診料と再診料は据え置き。一方、日本医師会などの診療側が引き上げを要求していた「機能強化加算」(かかりつけ医の初診料に上乗せ)と「地域包括診療加算」(同様に再診料に上乗せ)は、ともに要件が緩和されて取得しやすくなったものの、点数そのものは据え置かれた。
医療機関にとって、初診料と再診料は大きな収入源。マイナス改定を主張する健保連や経団連と日本医師会や病院団体の間で論戦が展開された。結果は、ほぼ現状維持。安堵する病院や診療所の経営者が多い。

入院関連では、病院の機能(患者の重症度や医師・看護師の配置など)によって設定されている基本入院料が大きな争点。人件費や医薬品・医療機器の上昇を理由に引き上げを求める診療側に対し、支払い側は猛反対。これに点数の高い「急性期一般入院料」を引き下げたい厚労省の思惑が絡み、激しい論戦となった。結果は、重症度や医師・看護師の必要度を厳格化し、点数は据え置き。
また、容体が落ち着いた患者や生活習慣病患者を受け入れる「地域包括ケア病棟入院料」と「入院医療管理料」は、既に届け出ている医療機関を除き、400床以上の大病院や特定機能病院の回復期リハビリテーション病棟は届け出を認めないことになった。
厚労省は「一般病棟から転換するケースが多く、当初の想定以上に増えた」と増え過ぎを認めた格好だ。
「病診連携」へかかりつけ医を優遇
小規模病院が多い「かかりつけ医」と大病院との連携を進める「病診連携」を強化するため「診療情報提供料」を手厚くする。かかりつけ医が継続して診ている患者の情報を大病院に提供すると、新報酬を取得できる。
一方、大病院への患者集中を防ぐため「紹介状なし受診の定額負担」の対象となる大病院(400床以上)に「特定機能病院と地域医療支援病院(200床以上)」に拡大する。紹介状のない患者は診察料とは別に初診5000円以上、再診2500円以上を支払うことになる。
医療機関への新報酬は、厚労省が推し進める急性期病棟削減策などに沿った改定となったように見える。だが、内実は診療側と支払い側のせめぎ合いの結果を踏まえた点数となり、肝心な病院改革や再編に踏み込んでいない。患者が医療機関に求める「フリーアクセス」や「問診・診療説明の充実」がさらに遠のいた感は否めない。