講演と会見「感染病施策と報道」<武田徹教授>

 新型コロナウィルスによる被害が、世界的に拡大。深刻化している。2020年4月1日、日本記者クラブで、武田徹氏(専修大学ジャーナリスト学科教授)による、「感染病施策と報道」のテーマで講演・記者会見があった。地球上で、世界大戦なみのショックが広がり、感染者数、死者数は上昇する一方で終息は見通せない。未知なものに対する漠然たる恐怖が世界中で拡散、いま、メディアに求められる「的確さ」「冷静さ」「先見性」を強く認識させる会見だった 。

「医の負の歴史」を繰り返さない…

 武田教授は、1900年初頭のハンセン病隔離医療を例題として取り上げ、当時の国家と報道の動きを検証しつつ解説した。ハンセン病の隔離病棟は、人権侵害施設による人間の拘束という重大問題があったと指摘。日本の「医の負の歴史」であるとも強調。当時、国民は隔離政策が本当に必要であったのか、という基本的な課題に気付かなかった。
 同教授は、当時の日刊新聞を取り上げ、報道が政府宣伝の浸透に使われた経緯にも触れた。感染状況を確認しないまま、患者数が「100万人…」などと表記された紙面なども事例として挙げ、真実の確認、正確な報道の必要性を強く訴えた。

ソーシャルディスタンシング を考える

 「 ソーシャルディスタンシング (社会的隔離対策)」についても解説した。現在、国の「隔離政策」だけでは解決できないという指摘の通り、多様な要因が表面化している、という。隔離政策だけで、感染病を「0」(ゼロ)にするのは不可能。さらに残余リスクへの対応も、不安材料として残っている。 ソーシャルディスタンシング を、どのように考え、評価していくかが、今後、大きな課題であると強調した。いかにリスクを最小化し、受け入れるという自発性を社会の一人一人に促すことが大切とした。
 メディアとしては、隔離政策推進 だけに偏しない幅広い視点に立った報道姿勢が求められる。感染病施策は、かつて隔離重点型で進めた「負の歴史」があり、社会も気付かなかった部分について、国民と共に考えていく報道が望ましい。

 新型コロナウィルスは、地球全体に被害が拡大し、各国とも国情や環境に応じた対応に全力をあげている。それぞれの国家体制や統制力によって格差が出ているが、「隔離」「閉鎖」「遮断」など、強制手法の導入が目立つ。そして国が強制手段をとる時の正当性主張の中身を見極める必要性があることも説明した。

(千)