ジャーナリスト 楢原 多計志
新型コロナが病院経営を直撃
新型コロナウイルス感染症の拡大で約3割の病院が夏季賞与を減額したり、賞与の支給を見送ったりした―。調査した日本病院会(日病)の担当役員は、「このままでは病院経営が行き詰まる」と国にさらなる経営支援を求めている。支援の行方とともに、経営悪化の要因の1つである患者の受診抑制に歯止めがかかるかどうかがハードルに。新型コロナ感染の収束がカギを握っている。
コロナ報酬は3倍でも…

日病、全日本病院協会、日本医療法人協会の3病院団体は「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(2020年度第1四半期=4~6月)結果」を発表した。調査期間は7月1日~8月3日、有効回答は1459病院だった。
「医業収支(6月)」をみると、前年6月段階では全体の55.5%が赤字だったが、新型コロナ下の今年6月では赤字病院が67.7%に増えた。気になるのは、新型コロナ患者を受け入れたり、専用病床の整備などで受け入れ準備をしたりした病院の82.1%、また一時的に外来病棟を閉鎖した病院の82.9%が赤字となったことだ。新型コロナに対応している病院の多くが赤字に見舞われているという、厳しい現実が浮かび上がっている。
政府は、医療崩壊を危惧し、PCR検査で陽性と判断されても症状がなければ(確定患者でなければ)、原則として医療機関への入院を抑制している。いわゆる「医療の重点化・集約化」だ。一方、受け入れた医療機関には“コロナ特定報酬”を創設して報酬を積み増し、医療崩壊を食い止めようとしている。
例えば、重症感染者をICU機能のある専用ベッドに入院させた場合、現行の診療報酬「特定集中治療室管理料」の3倍となる新しい診療報酬を新設した。他にも、新型コロナ治療に関わる報酬を新設したり、要件を緩和したりした。
ところが、入院患者が増えるにつれて、病院経営は悪化の一途をたどっている。新型コロナ患者専用ベッドを確保するために他の疾病患者の入院を延期したり、手術を見合わせたり、延期したりせざるを得なくなったりして支出が激増しているためで、3倍報酬では埋められないのが実態だ。
さらに、外来患者が感染を心配して受診を控える「受診抑制」や、救急搬送を控える患者が増えていることも影響している。病院にとって外来収入は入院収入と並ぶ大きな収入源。受診抑制は病院経営を確実に脅かしつつある。
日病役員は「6月に入り、入院、外来ともわずかながら回復の兆しが見えたが、医療損益が続き、特に新型コロナ患者に対応している病院では10%を優に超える大幅な赤字が続いている」と苦悩を隠せない
地域医療がクラスター状態の恐れ
苦しい病院経営の結果、今年の夏季賞与を減額したり、支給しなかったりした病院が続出している。先の調査によると、全体の27.2%の病院が夏季賞与を減額し、0.8%が不支給と答えている。
その中から新型コロナ患者を受け入れている病院を取り上げてみると、「減額支給」23.3%、「不支給」0.2%で、全体と大きな差は見られず、医療従事者が、特段に優遇されているわけではないことが分かる。
日病の役員は「調査結果はおよそ4分の1の病院には賞与を出す経営体力がないことを物語っている。東京女子医大病院のように、経営者がやむを得ず、ボーナスゼロの方針を打ち出すと、数百人規模の大勢の看護師が退職の意向を表した事例(その後、減額支給で和解)が多発しかねない」と憂慮する。
新型コロナ感染が再び全国に拡大している。政府の補正予算で緊急包括支援事業が始まり、医療機関や従事者への財政支援が行われているが、感染がさらに広がると、事業費がひっ迫し、地域医療そのものがクラスター状態になりかねない。場当たり的な診療報酬積み上げや財政支援だけでは、新型コロナに打ち勝てそうもないことは確かだ。