四半世紀目前、経営倫理士延べ716人を送り出す 

第24期生の23人 修了式で資格認定

 「企業の不祥事などにネガティブで漠然とした気持ちでいたのが、幅広く講座を通して経営倫理について学ぶ機会を得て、今後、自分自身が理解したことをどのように社内に浸透させていくかが課題です」

 年初から始まった新型コロナウイルスによる肺炎感染が世界規模で拡大、その“第3波”が報道される中の11月18日、第24期の経営倫理士講座をマスターした23人が、新たな資格取得者として誕生した。日本経営倫理士協会(ACBEE:東京・港区赤坂)からインターネットを使ってのオンライン方式で修了式が行われ、資格認定証の授与を受けた。これにより協会が発足(1997年10月、設立時は経営倫理実践普及協議会)、第1回を開講してから23年を経て巣立った経営倫理士は700人を超え716人に達した。

 前年同様の四半世紀を目前にした今年1月、予期せぬ異変となる新手のコロナウイルスが、わが国にも持ち込まれた。感染拡大の一途をたどる5月、第24期の半年に及ぶ講座(14講座、20テーマ)は開講した。開講まで例年通りのスケジュールで講座や講師、会場予約の手配などを進めていた協会では、いわゆる“3密”状態がもたらす感染拡大を避けるため打ち出された国の方針に、一時は今年度の講座開講を断念せざるをえないとの判断に傾いた。

 しかし、協会トップと事務局の情報収集と会議方式の変更がオンライン方式で可能との見通しを得て、同業の教育事業企業に先立って講座・講義をオンラインで配信することに踏み切り、環境整備に奔走して開講にこぎつけた。18日の修了式はZOOM方式によるオンラインで行われ、潜道文子理事長ら協会幹部が祝辞を贈り、新しく資格を得た経営倫理士たちが1人ずつパソコンの画面を通して印象に残った講座を振り返りつつ、半年に及んだ受講と3回の小論文執筆の苦心や危機管理を想定した社長と記者会見の役回りを画面上のディベートで体験したことなどの思い出を3分間スピーチで語った送り出す。

❖24期の講座開講はACBEEの大きな挑戦だった

 北村和敏常務理事の司会で始まった修了式・資格認定証書授与式。あいさつに立った潜道理事長は冒頭、新たに誕生した23人の経営倫理士たちにお祝いを述べ、来年創設25周年になる協会の歩みと経営倫理、CSRなどに関わる研究や大学での教育に携わっている自己紹介をしながら24期講座の開講に至る苦心談を披露した。

 新型コロナウイルスの感染拡大がパンデミック(世界的な爆発的流行)の様相を見せ始めたことに「ACBEEも5月からの今年度の開講は無理かと思いました。しかし、24年も続いている講座を途絶えさせていいのかと考えると残念で、なんとか継続させたいと、“3密”を避けて学べる手立てはないものかとスタッフと意見を交わし、情報を集めました。今でこそ多くの講座や研修などでオンラインによる実施は普通に行われていますが、当時、他の組織に先んじてオンライン採用に踏み切ったのは、ACBEEにとっても大きな挑戦でした」と振り返った。
 そのうえで「今期の受講生では23人の修了生をみましたが、これまでは40人近く。それだけに今期は皆さん大変意識的に講義に参加、講義の前後に資料や書籍にあたって勉強されたようで、大変レベルが高い優秀な成績を残されたということを伺いました」と評価。

 さらに30年ほど前、企業フィランソロピーやメセナなどが取り組まれるようになったバブル経済期から経営倫理、CSR(企業の社会的責任)の研究を始めた自身の経歴を述べ、「企業にインタビュー取材もしましたが、社会貢献活動の分野で多くの情報をいただいたものの、企業倫理、経営倫理の分野となると、腰が引けた、あまりハッピーなテーマではないな、という印象を受けていました。ところが、最近では企業にSDGsという考え方、取り組みが急速に広まり地球温暖化、生物の多様性の喪失、貧富の格差、人権問題などの社会的課題に対し、何らかの貢献をしようとする企業がたくさん登場しています。ビジネスにおいて、倫理を重視するということが経済的利益を生むという時代になったということが言えるかもしれません」と振り返った。
 加えて現在のようなコロナウイルスの世界的なパンデミックの只中にあって、人々の価値観、倫理観が大きく変わっている可能性があるとして、「まさに今が歴史の分岐点になっている可能性が大いにあります」と断言、「このような社会の変化に、企業で働く皆さんがどう対応していくかが、ビジネスの成功、失敗に大きく影響を及ぼす要因となる可能性があります。倫理を軸とした仕事の仕方や意思決定が、これまで以上に求められている時代だということが言えます。そのような意味で、経営倫理士の方々の活躍が組織や、社会からますます期待される情況になっています」とエールを送り、協会はそのためのサポートをしていくことを伝えた。

修了式の司会進行を務めた北村常務理事

◆北村常務理事の談話
「受講期間中に2回、テーマを与えられての小論文と最終テスト論文がありましたが、それらの成績で予習をされたり、講義を受けた後、さらに関連の書籍や文献に当たられるなど、それにふさわしい勉強をされていることがよくうかがえました」

 続いて認定証の授与式に移り、修了生代表に潜道理事長が認定証書を読み上げ、優秀な成績で経営倫理士の資格を得た栄誉をたたえた。これに応えて修了生一人ひとりが半年間の講座と講義を振り返り、印象に残ったことや資格を得た今後、それをどう生かしていくのかなどをショートスピーチ。それぞれが幅広く学んだ経営倫理のさまざまな分野において、感謝と “理論武装”できたことによる企業・組織でのあり方や決意を語った。印象に強く残った講座では、最終14回に当協会理事で関西大学の髙野一彦教授による「クライシス・シミュレーション・トレーニング」が挙げられた。企業における不祥事、事件事故をテーマにシナリオが作られ、受講生が社長や記者会見の新聞記者などの役回りで、危機管理、リスクマネジメントの実際である初期対応を演じるなど、“刺激的な実体験”を味わったようだ(主な発言の要旨は以下の通り)。

❖地道な取り組みを重ねていくプロセスが重要

《修了生のひとことふたこと》

◆「27年間、医薬の営業畑で経営倫理とは縁がなかった。社会の変化に伴い、何がなんでも売っていこうという姿勢から、最近はその先にいる患者さんを見据えての正しいプロモーションをしていこうと大きく舵を切った。いま業界ではプロモーションコードを作って、それを順守していこうとしており、それを監督、管理している立場にある。学んだことを自分の会社に当てはめて、こういうところが取り組みが甘いなどと色々見えてきて興味深かった」(製薬会社:東京支店総務課主幹)

◆「入社以来、人事部門が長かったが1年ほど前に現在の部署に異動となり、グループ会社を含めコンプライアンス推進活動に広く携わっている。幹部から折に触れメッセージを発信されるが、いつも一度不祥事を起こせば、これまで築いてきた社会の信頼を一瞬にして失うということを幾度となく言われてきた。自身、本当にこのような、どちらかと言えばネガティブだけのことが目的なのだろうか、と漠然とした疑問を抱きながら仕事をしてきた。
 今回、講座を通じて経営倫理の本来の必要性とか、企業が自身の強みを生かしながら事業活動を通じて社会に貢献して、信頼を高めて行きながら企業自身も発展していくのだということを理解できたことが大きな収穫。今後どのようにして自分の仕事を通じて生かしていくのかが課題と思っている。地道な取り組みを重ねていくプロセスが重要なのだと考えている」(総合化学メーカー:内部統制推進部コンプライアンス推進グループマネジャー)

◆「常勤の監査役をやっていて感じることは、企業発展の要諦は不正の管理とコンプライアンスではないか、ということ。コンプライアンスの全体感を知るには最適な講座で、大変役にたったと感じている。そうはいっても経営倫理は大変幅が広いもので、資格を取ったから終わりというものではなく、これを契機に倫理に関わるあらゆる項目に研さんを積んでいきたい。講師の先生方が自信をもって、かつ広い知見で講義されているのを感じ自分もそうなれるよう学んでいきたいと思っている。遅まきながら当社でもSDGsに取り組むという雰囲気が出て来ている。取締役会、社長といろいろ議論し今回得た知識をもって社の発展に寄与できたらいい」(コンテンツ調達・配信技術提供:常勤監査役)

◆「弊社から毎年講座を受けていて、これまで1人も資格取得できなかったことはなく、自分も無事取得できてホッとしている。これまでサステナビリティや企業理念の推進活動などをやっていた。今回半年、幅広く講義を受けさせてもらい、それは全部つながっているというか、一つ欠けても経営倫理は成り立たないということを改めて確認でき、学びも大きかったし、ある意味自分がいまやっている業務の一つ一つの自信にもなった。一方で会計、監査、SDGsとか自分が捉えきれていない要素もあって、今後、さまざまな要素が経営倫理を高めていくのに必要なのだということを実感した。しかし、自分一人でその全ての領域を深めていくのは、ある意味むずかしいと思っていて、ただいろいろな要素がないと経営倫理は成り立たないという意識をもって、いろんな部門とつながって私の部門とか、私がハブになって連帯して経営倫理を高めていくのが非常に重要なのかなと感じている」(社会システム開発:グループ企画室CSR部)

❖講座の魅力 異業種交流の機会をあらためて…

 当講座の大きな特色であり、魅力でもあるそれぞれの分野、職種から集まった受講生同士によるFace to faceの交流、情報交換の場や講師と直接ふれあう機会がコロナ禍で叶わなかったことを一様に心残りだったと感想が述べられたが、今後機会があれば再会して交流を深め、さらに経営倫理士としての知識とスキルを上げること熱望、幹事2人を選んだ。

❖24期生送り出しにあたって

24期生への大きな期待を寄せる千賀専務理事からもエールが贈られた

 最後に千賀瑛一専務理事から24期の新経営倫理士23人へ送るあいさつがあった。 
 「皆さんの3分間のスピーチをうかがっていて励まされ、今後やるべきことを痛感させられました。コロナ禍のもと、働き方改革や大学をはじめとした教育・学びの場でも大きな変化の状況下にあります。そういう中で経営倫理士としての知識、実践ノウハウを身に付けるという新しいタイプの学びの場、資格の取得です。新型コロナによって例年より若干受講生数は落ちていますが、それは逆に精鋭、粒ぞろいの方々がそろったというイメージで受け止めています。 
 今期の審査の中でも24期は、かなりレベルが高いという評価がでていました。コロナシフトという大きなハンデを乗り越えて見事、資格を取得された皆さんには心よりお祝いを述べさせていただきます。 
 最後になりましたが、経営倫理士の資格を取った以上、経営倫理士行動規範に基づいたものを皆さんの心にしっかりと植え付けて、仕事、研究に当たられますようお願いをしておきます。」