2021年度介護報酬改定 「どう変わる介護の値段」(中)

福祉ジャーナリスト 楢原 多計志

介護事業者は“加算漬け”

 2021年度介護報酬改定の特徴の1つが介護サービスの基本報酬に上乗せされる加算の新設と要件の緩和だ。人出不足などで収支が悪化している介護サービス事業者の救済が目的だが、介護業界から「加算ばかり増えて」と不満や不安の声が相次いでいる。なぜ、加算が増えるのか、厚労省(政府)の真の狙いは何か。

特養も加算だらけ 背景に社会保障費抑制

 介護事業者に支払われる介護報酬は、1階が基本報酬、2階が加算という2層構造になっている。いずれも利用者は原則1割を負担する。介護保険は基本報酬で経営が成り立つように設計され、2000年にスタートした。
 ところが、事業者から物価や人件費の上昇などを理由に基本報酬の引き上げを求める要望が続くと、厚労省は基本報酬をわずかに引き上げたものの、次々と加算を新設し、また加算が取りやすいよう算定要件を緩和して急場をしのいできた。21年度改定はその延長線上にある。背景には政府の社会保障費抑制策がある。

 どんなに加算が多いのか、特別養護老人ホーム(特養)を例にとると分かる。ベテラン介護職員の離職防止を目的とする「特定介護職員処遇改善加算」、看護師の配置を手厚くする「看護体制加算」、入所者の最期を看取る「看取り介護加算」、床ずれを防ぐ「褥瘡(じょくそう)マネジメント加算」など実に約30もの加算が用意されている。
 これらの加算は、算定要件を満たした事業者に支払われる。一方、利用者には選択権も拒否権も与えられていない。例えば、「看取り介護加算」を算定している特養の入所者が「看取りは要らない」と上乗せサービスを断ることはできない。加入者が選択できる民間保険のオプションとは全くシステムが違う。

厚労省の意図「科学的根拠に基づくケアに」

 21年度改定で事業者から注目されている加算がある。新設される「科学的介護推進体制加算」だ。厚労省は「エビデンス(科学的根拠)に基づいたケア(介護)に取り組む事業者が算定できる加算」と説明してきた。
 特養の場合、算定できれば、入所者一人当たり月額400円または600円(要件の違いで報酬単位が異なる)が事業者の増収になる。
 算定要件は、厚労省のデータベースCHASEとVISIT(4月からLIFEに統一して名称変更)に利用者全員に関する生活状況や栄養、口腔、認知症などの情報を入力し、フィードバックを受けて介護現場でPDCA(計画・実行・改善・行動)サイクルすること。
 要は、利用者のデータを厚労省に報告し、介護現場に活かせば、加算が付く。
 では、「科学的介護」とは何か。19年7月、厚労省の「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」は介護分野でも科学的手法の必要性やデータの蓄積・活用の必要性を明記したものの、「科学的介護」を明確に定義付けていない。肝心なところをあいまいなまま新加算がスタートすることになった。
 私見で恐縮だが、事業者から介護データを上げさせ、事業者間や地方自治体間で比較できるようにしたデータをフィードバックして事業者や地域に競争意識を持たせることによって、より効率的で生産性の高いケアを実現する─という厚労省の意図がうかがえる。同時に政府が進めるデジタル化の一環にもなり、官邸の受けも良いという。

3年後の改定 効果検証でせめぎ合い

 加算は出来高払い。創設や緩和(規制強化)は厚労省の裁量権の強化につながる。加算が増えれば増えるほど、厚労省の裁量が拡大する。一方、事業者は「加算が取れないと、食べていけなくなる」と危惧し、基本報酬の引き上げの必要性を強調する。
 介護報酬の在り方を審議する社会保障審議会・介護給付費分科会では、改定前になると、事業者側は「加算を整理し、算定率の高い加算は基本報酬に組み込むべきだ」と要求してきたが、厚労省は財政難を盾に基本報酬アップを抑え、加算の新設や要件緩和で応え、結果、裁量権を拡大強化してきた。
 次の改定は3年後の24年度。水面下では、加算の効果検証をめぐる厚労省と介護事業者のせめぎ合いが始まっている。