◆ウクライナで「医療列車」「地下病院」実用化へ 

千賀 瑛一  日本経営倫理士協会専務理事
(日本記者クラブ会員)

国境なき医師団・門馬医師、人道支援について帰国報告

門馬秀介・国境なき医師団医師(写真下も)
日本記者クラブ会見=4月26日

国境なき医師団(MSF)の門馬秀介医師が2022年4月26日、日本記者クラブで会見した。
ウクライナへのロシア侵攻後、2ヶ月以上にわたる戦闘で被害は拡大し続けているが、門馬医師は日本人として初めてウクライナ入りした。同医師は、日本国内の大学病院救急医療に携わっており、2014年国境なき医師団に参加。パレスチナ・ガザ地区での活動経験がある。

戦傷者中心で一般診療は手薄に…

今回、ウクライナへは3月21日に入国、帰途は4月3日にポーランドへ出国し、4月17日帰国した。ウクライナ東部のマリウポリから約240kmのドニプロとザボリージャの視察などを行った。業務は① MCP(マス・カジュアリティ・プラン=現地医療機関スタッフへのトレーニングなど) ②移動診療③避難所にある地下病院の設営準備など。

ロシア侵攻によるウクライナ被害は死者2435人、負傷者2946人(4月22日、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)発表)とみられ、その後、死者・負傷者とも増え続けている。門馬医師は「現地の病院での治療は戦傷者が中心になっているため、一般治療は手薄になってしまった。基礎疾患のある高齢者、子供たちという医療弱者への対応が難しくなっている」と話した。

ウクライナ周辺に支援拠点つくる

ロシア侵攻以来、国境なき医師団はルーマニアなど近隣各国に7カ所、国境周辺各地に15ヶ所の人道医療拠点を設け、現地スタッフの約200名が活動している。この中には海外からの支援スタッフ130名がおり、日本人4名も入っている、という。

今回の活動予算は約63億円に上るとみられている。4月24日から「MSF緊急医療体制」に入り、国境なき医師団としても大がかりな取り組みとなっている。この特別体制下、診療をはじめ緊急医療物資の輸送・提供、医療教育研修、患者搬送など幅広い人道支援活動が動き出した。
また戦闘地域への搬送では外傷用の医療品が中心となるが、目的地に到着できないケースが多いという。

門馬医師は「ウクライナでの医療は一定水準以上と思う。そして戦闘が続く中で、多くの医師が現地に残って自力で医療体制を維持している。しかし戦闘の激しい地域に入れないようだ。戦闘によって大量外傷者が出た場合など、準備は急ぐ必要がある」とも指摘した。

会見で提供された資料より(日本記者クラブ:会見リポートYouTube会見動画)

医療列車に救急医が同乗して治療

戦闘地域周辺での医療環境悪化が懸念されていることも言及した。医療環境が整っていないため救える命が失われてしまうケースが続いている。
「医療列車」の動画レポートも提供された。ザボリージャからリビウまで2日かけての特別救急列車だ。列車に収容されたのはマリウポリなど東部での戦闘負傷者や要介護の高齢者、孤児院の小児らが中心。救急医が同乗、患者の症状を安定させつつ治療にあたった。患者家族も同乗していた。列車の運行にはウクライナ国鉄などが協力した。収容搬送されたのは合計270人(3月31日~4月20日、列車は6本)。今後医療列車は拡充強化されていく方針。

地下病院の治療環境などが課題

都市部では、ウクライナ軍や市民らが地下シェルターに避難するケースが出ている。シェルターは大型で強固に作られているが、治療の際の環境が問題になっている。門馬医師はドニプロで地下病院設営のための視察もしているが、今後は地下病院のあり方について検討する必要性があるとも強調した。

国境なき医師団の主要な活動として、大学や市民団体向けの研修支援がある。今回、門馬医師はザボリージャ医科大学などで難民ケア、救急医療研修を行ってきた。本来MSFの人道支援活動は医療研修では外傷治療だけでなく心理ケアなど幅広い対象の研修をしている。
国境なき医師団は「国際人道法」に基づいて活動しているが、「いつでもいかなる場所においても安全な医療へのアクセスを確保されるべき」という理念を訴えている。

ウクライナ侵攻でもロシア側での医療活動を行うため交渉したが困難な状況が続いているという。門馬医師は今回のウクライナ派遣を踏まえ、課題として地下病院での安全な治療などをあげている。さらに、いま世界で傷ついている人、病んでいる人を救うため日本は何ができるかを考えていかなければならない、と話した。

以上