「日本経営倫理学会」が創立30周年 

3月31日に「記念シンポジウム」開催 

 日本経営倫理学会(潜道文子会長=拓殖大学副学長:右写真)が創立30周年を迎えた。3月31には記念シンポジウムが開かれる(同学会 30 周年記念事業委員長今井祐氏)。経営倫理に関する総合的な学術研究組織として築き上げた実績は高く評価されており、さらなる活動に期待が集まっている。

人間や社会へ向けた経営倫理を…

 経営倫理学は1970年代後半にアメリカで誕生した学問で大学など高等教育の場でも調査研究が始まっていた。経営倫理学の日本への導入に大きな功績のあったのが故水谷雅一氏=神奈川大学教授(1928~2009)。同氏は東京大学経済学部卒業、古河電工、日経連(当時)など務める一方、アメリカハーバード大学ビジネススクールを修了。アメリカ留学中に、新しい学問としての経営倫理学に注目、日本への導入に全力を注いだ。
 水谷氏は、当時の時代的背景から、21世紀へ向け人権、公正、環境など企業が人間・人類や社会へ向けた取り組みを強化する必要性を訴えた。そして日本経営倫理学会創立の活動に発展していった。

1991年に「考える会」として発足

 水谷氏は大学はじめ経済団体(「経済研究会」など)で経営倫理への研究参加、取り組みを呼びかけ、その輪は拡がっていった。特に国内の学術関係者に限らず産業界や企業関係者にも参加を呼びかけていった。現在の学会の特色は、産学連携をはじめグローバル化対応、学際的な研究領域、幅広い情報発信・交流など。
 学会誕生の原点は1991年、「経営倫理を考える会」として発足、1994年に「日本経営倫理学会」としてスタートした。「考える会」は東洋経済新報社・会議室を定例会場として約3年間続いた。学会も発足当初は100人未満だったが、500人(2022年)に達した。研究活動も理念哲学研究部会など9部会と2地方部会を展開するなど組織拡充も進んでいる。

富士フイルム・助野会長らが講演

 創立30周年記念シンポジウムは、3月31日学術総合センター 一橋講堂(東京千代田区、東京メトロ「竹橋駅」・都営線「神保町駅」そば)で開かれる。
 統一テーマは「CSR・CSVとサステナビリティ」。カリフォルニア大学バークレー校名誉教授 デービッド・ボーゲル氏のメッセージが紹介される。
 講演第1部はロンドン大学ロイヤル・ハロウェイ校 教授 ローラ・スペンス氏。テーマは「経営倫理・CSR・サステナビリティと持続的成長目標」。英国、ヨーロッパの経営倫理について幅広い見識を持っている同氏の理論展開は関心を集めそうだ。
 同第2部では富士フイルムホールディングス代表取締役会長助野健児氏。テーマは「富士フイルムのサステナビリティ経営と事業ポートフォリオマネージメント」。同氏は米・英の現地法人などの勤務を経験。取締役企画部長など歴任。収益が大幅減した写真フイルム事業の立て直し、大胆なM&A展開など、その経営手腕は高く評価されている。経営者の立場からの経営倫理とその実践についての視点は注目される。


 学会創設者の故水谷会長は経営倫理の理論と実践の融合のための組織づくりも精力的に手がけた。学会創立して5年後に経営倫理実践研究センター(BERC)、日本経営倫理士協会(ACBEE=発足時は経営倫理実践普及協議会)の2組織を発足させた。両組織づくりの母体は日本経営倫理学会(JABES)で、講師などの人材提供、学習・実践の企画・編成等でバックアップした。
 なお、水谷氏の著作は多数あるが、特に学生・ビジネスパーソン向けの著作『経営倫理学のすすめ』(丸善ライブラリー)は好評で、その後絶版となったものの、現在は電子書籍として復刻、販売されている。