アデランス 本業を通じたCSR推進

子どもへのウィッグ贈呈や売り上げに基づいた植樹活動

アデランス本社にて

総合毛髪企業のアデランス(東京都新宿区)は、「本業を通じたCSR」(企業の社会的責任)を積極的に推進している。自社の強みを社会で生かし企業の成長を図ることで、社員のモチベーションにつなげている。取り組みの原点、そして根底に流れるのは―。同社のグループCSR広報室長で、経営倫理士の新田香子氏に話を伺った。

子どもに贈る「愛のチャリティ」

愛のチャリティポスターと事務局に寄せられた手紙(右下)

「売って終わりではなく、アフターメンテナンスこそ重要」。話は1968年にさかのぼる。代表取締役会長・根本信男は女性用ウィッグの会社に勤務していたが、「男性の方に需要があるのでは」と考え、同僚2人を誘って同社を創業した。
信条は客の髪の悩みに徹底的に寄り添う。頭の形から髪の流れや髪質、毛色にまでこだわり、一人ひとりに合わせるオーダーメイド・ウィッグを開発した。また、広告を営業マンと考え、髪で悩む人からの相談電話を受ける反響型営業で、知名度を上げていった。「パパ、アデランスにして良かったね」のCMが、ニューファミリーの心をとらえ、大ヒットした。
現在、約2700人の社員で、理・美容師の資格を持つのは約1400人にも及ぶ。
「社会への恩返しをしたい」。同社のCSR活動の原点は、創業10周年の1978年にある。社員のアイデアから始まった「愛のチャリティ」は、ウィッグを子供に贈る活動だ。
抗がん剤の影響、やけど、脱毛症など、さまざまな理由で毛髪を失う子供は少なくない。幼少期に受けた心の傷は大人になっても残る。「髪の悩みを心の傷にしないように」少しでもお役に立てたら、との思いが込められた。
当初のオーダーメイドがレディメイド(既製品)もプレゼント対象に加わり、クリスマス限定から通年へと広げ、現在では年間300~400人の子供たちにウィッグを届けている。
多くの社員がこの活動を経験している。子供への接し方を通して、心の痛みを知り、接客などさまざまな学びにつなげている。40年以上続く活動は、自社の強みを生かすことで、人の助けになり、子供たちを笑顔にできる。その達成感が社員のモチベーションにつながっている。

ウィッグが苗木に形を変え…

同社は、環境への取り組みにも力を入れる。なかでも活動の柱としているのが、2009年から実施している「フォンテーヌ緑の森キャンペーン」だ。
フォンテーヌは、同社が百貨店を中心に展開するウィッグのブランド。ウィッグの約8割以上がポリエステル由来の人工毛髪で作られており、家庭ごみとして廃棄されると、CO₂発生につながる。「回収して当社が適切な廃棄処理を行うことで環境負荷を減らすことができるのでは」という思いから始まった。
使われなくなったウィッグをお客が店に持参すれば、クーポンをもらえ、クーポンを利用すれば、割引価格で新しいウィッグを購入できる。同時に、商品1点につき売り上げの一部をフォンテーヌから植樹活動に活用する取り組みで、他社商品の回収も受け付ける。
植樹は、山梨県笛吹市から始まり、合同会社「ツバルの森」を通じて参加し、これまでに1200本以上を植えた。17年からは、NPO法人「さくら並木ネットワーク」の活動に賛同。東日本大震災の津波の到達地(宮城県南三陸町)に桜の植樹を続けている。さらに19年からは、景観で知られた静岡県立森林公園(浜松市浜北区)でのアカマツ林再生活動に民間企業初のサポーターとして参加している。
作業は、現地エリアの社員を中心に、時には同社社長や役員が一緒になって汗を流す。地ならし、苗木の植樹と、思った以上に大仕事になるが、ウィッグが苗木に形を変え、年々成長していく姿を目にできる喜びは何物にも代え難く、「自分の仕事が環境につながっている」ことを実感できるという。
活動開始から12年間で回収したウィッグは約9万6000枚、環境保全面積は約2万5000平方メートルに達している。
お客は環境保護活動への参加意識を持て、同社にとっては休眠顧客の掘り起こし、百貨店としてもイメージ向上につながる。まさに、巻き込み型キャンペーンと言える。

アカマツ林での植樹(「静岡県立森林公園」にて)
社長の津村氏も参加、参加者には社長直筆の感謝状が贈られる

CSR経営を積極的に発信

同社のCSRプロジェクトは2011年に発足した。外資系ファンドの経営に転換したことにより、会社に元気がなくなっていた。「社員の笑顔を取り戻したい」との願いが込められていた。
始めに「社会的価値を持った活動」の洗い出しを行った。商品企画から販売、アフターサービスまで。全事業について、海外のグループ会社も含め、細部まで聞き取っていった。
継続期間や重要度、その範囲、CSR的観点から区分し一覧化して発信。社外から客観的評価を受け、整理していった。そうして、見える化したのが小冊子「笑顔のために」だった。
「CSRを経営の基盤に据えよう」。同社のCSRが順調に進んだ鍵は、津村佳宏代表取締役社長自らが、重要性を内外に積極的に発信したことだ。
往々にして世間では、CSR部門と営業の仲が悪くて、うまく連携が図られないケースがあるが、同社では会長・社長自らや営業のトップが「CSRが経営品質を高める」と説き、CSR活動の基軸を営業現場に置いた。
CSR担当部門でも、折に触れ、小冊子を使って丁寧に伝えていった。こうした活動が奏功し、営業との連携・浸透が広がっていったという。
今、同社グループは「ES=社員のやりがい」「CS=お客様満足」「CSR=社会・地球環境への責任」と考え、「ECSR三方よし経営」を掲げている。
CSRの推進は、コンプライアンス意識の高まりにつながる。内外に発信することで、客やビジネス相手から信頼を得ることができる一方、恥ずかしいことはできなくなるからだ。同社では計10人が経営倫理士の資格を持っているが、中には現役の営業部長もいるという。
2015年に国連でSDGs(持続可能な開発目標)が採択され、同社でも17のゴールと事業の紐付けを行い、活動テーマを「笑顔のために」から「ずっと笑顔でいられるために」へ進化させた。
「(SDGsが目標とする)2030年ではなく、〝アデランスが成長すると社会がよくなる〟を目指して、その先50年後を見据えて、やっていかなくてはいけません」と新田さんは話していた。「ずっと笑顔でいられるために」同社はすでに2030年のその先を見据えている。

≪メモ≫

  • 株式会社アデランス1969年設立、資本金1億円。
  • 本社・東京都新宿区新宿一丁目。津村佳宏代表取締役社長。
  • 経営倫理士10人在籍。
  • 一般社団法人経営倫理実践研究センター(BERC)会員。

ACBEE企画担当 春名 )