企業のコンプライアンス構築を支援
電話相談のパイオニア「ダイヤル・サービス」(東京都千代田区)の「企業倫理ホットライン」は、2003年から始めた民間では全国初の、内部通報制度の外部窓口サービスだ。通称・改正公益通報者保護法が今年6月に施行され、事業者にコンプライアンス体制構築の一層の強化が求められるなか、順調に契約実績を伸ばしている。その背景やサービス内容について、同社サービス企画チーム・チーム長の高田奈穂子さんから話を伺った。
同社は1969年、世界的にも前例のない電話相談サービスを行うベンチャー企業として、今野由梨社長が創業した。
今野社長は女性起業家の草分け的存在として知られ、71年に始めた日本初の「赤ちゃん110番」は核家族化で育児に悩む母親が増え、コインロッカーベビーなどの事件が相次いだころ、心を痛め、母と子を救いたい一心でサービスを開始した。
その後、「エンゼル110番」「子ども110番」「熟年110番」「健康電話相談」など、その時々の社会の要請に応じて、生活者の困りごとを、言葉と心で受け止めるサービスを展開してきた。
「常に新しいものを」「世のためになるものを」という同社の精神は今も変わらず持ち続けている。
これらの多くは、企業や自治体の委託や協賛を受けて、世に出してきたサービスだった。スポンサーとなった企業は、広報活動として、あるいは社会貢献、今で言うCSR活動として推進してきた。
1990年代中盤以降はやや状況が変わってきた。企業でのハラスメントやリスクマネジメントが社会全体で問題視され、法制強化の流れが強まると、法律の後押しを受け、新たな相談窓口を創設することになった。必ずしも「スポンサーありき」ではなくなった。
1997年にある企業と開始した「セクハラ防止ホットライン」の実績を基に、99年、企業の社員向け外部相談窓口「セクハラ・ホットライン」を開設。これが2003年1月の「企業倫理ホットライン」の誕生につながった

50年以上の電話相談実績
同ホットラインは、さまざまな職場の不祥事・不正事案やハラスメントなど、企業の内部では話しにくい問題や、パート、派遣社員など声を上げにくい立場にいる人でも安心して通報することができる窓口。
50年以上にわたる電話相談・カウンセリングのノウハウと実績から、応対力の高さが評価され、現在、あらゆる業種の企業や大学など約300社と契約。2021年度は6691件の実績を上げた。
基本型のサービスを基に、細部は企業の要望に応じてカスタマイズしている。電話が7割を占めるが、残りはウェブでの通報だという。
同社の従業員約300人のうち、相談員は約200人。いずれも看護師や臨床心理士、消費生活アドバイザーなど、各相談窓口に応じた専門資格保有者である。「企業倫理ホットライン」にはこのうち20人ほどが当たる。いずれも、社会保険労務士、産業カウンセラー、キャリアコンサルタント、公認心理師などの資格を有する。企業での勤務など豊富な経験を持つ。
電話は、平日の正午~午後9時までのほか、土・日・祝日も午前9時~午後5時まで受け付けている。ウェブは、24時間365日利用が可能だ。
電話相談員は、通報者との1対1のコミュニケーションを通し、不安や不満を受け止めつつ、通報の背景や問題・被害の詳細、会社に望むことなどを丁寧に聴き取っていく。
通報者の気持ちをほぐして、安心して本音を話してもらうには、相談員の聴く力、引き出す力が試される。1回の電話は、平均して約30分だが、最長で4時間ほど話を聴き続けたこともあったという。
「多くの通報が複合的な内容を含んでいるため、相談員はなるべく先入観を持たず、内容を限定的にきめつけないよう注意して通報を受け付けています」。また「相手の気持ちを受け止め、通報者の価値観や状況を分ろうとする姿勢をだいじにして応対しています」と話す。
同ホットラインでは、「実名での通報」「匿名での通報」に加え、通報者が「半匿名」を選ぶことができるのが特徴だ。「半匿名」は「ホットライン窓口には実名、企業には匿名」という方法だ。通報者は、匿名のままで企業からのメッセージを受け取ることができる。
相談員は、どこまでの内容を企業に伝えてよいかをしっかり相手と確認して報告書を作成し、翌日、企業に提出する。
相談者の男女比はほぼ半々だが、企業のなかで男性の従業員が多いということを勘案すると、女性が電話を掛けてくる割合が多いという。
外部の通報窓口のメリットについて、高田さんは「話を聴いてほしいというときは、客観的に受け止めることができる第三者が有効です」「電話による通報窓口では、相談員が通報者のプライバシーを尊重しながら通報事実を確認していきます。相談員が通報者と向き合い話を伺うことで、通報制度への信頼を寄せてくれます。その場で解決を図るのではなく、通報を受けて通報内容を整理して企業につなぐ〝橋渡し〟の役割」と強調する。
ハラスメント対応など展開
企業向けサービスとしては、「企業倫理ホットライン」のほか、「ハラスメント・人間関係ホットライン」と「こころと暮らしのほっとライン」などを展開している。
「ハラスメント・人間関係ホットライン」は、「セクハラ・ホットライン」の流れをくみ05年に始めた。ハラスメントや仕事上の悩み、過重労働、職場内のいじめ、人間関係など、さまざまなSOSを受け付け、臨床心理士や精神保健福祉士など専門のカウンセラーが相談に応対する。
労働施策総合推進法の改正で、職場におけるパワーハラスメント対策が20年6月から大企業、22年4月から中小企業も義務になった。職場におけるセクハラ対策や 妊娠・出産・育児休業などに関するハラスメント対策とともに事業主の義務になった。
相談窓口の設置など、従来以上の取り組みが求められており、「いかに早く、多くの情報を集めて対応するか」が、企業にとって喫緊の課題となっている。
同ホットラインは、専門のカウンセラーが相談者の抱える問題を一緒に考えていくという。
一方、「こころと暮らしのほっとライン」は10年から開設したEAP(従業員支援プログラム)トータルサービス。
職場や生活の中で感じるさまざまなストレスから来る悩み。それを解決するきっかけ作り、いわゆるメンタルヘルス対策は、いまや企業の重要な役割となっている。対策の充実化で、離職リスクの軽減を図ることにもつながる。
同ほっとラインでは、メンタルヘルスの相談だけでなく、「医療・健康相談」や「暮らしの相談」にもワンストップで対応する。個人が抱える悩みの大部分をカバーしている。
企業への報告は、相談の翌営業日と迅速なので、リスクマネジメントの観点からも有効だという
窓口担当のスキルアップ研修
同社では、内部通報やハラスメント窓口に携わる担当者のスキルアップ研修にも力を入れている。
改正公益通報者保護法では、事業者に対して、必要な体制の整備を義務付けており公益通報対応業務を専ら行うものを「従事者」と定めるよう求めている。「従事者」には、通報者を特定させる情報の守秘が義務付けられ、その違反に対しては刑事罰が課せられる。そのため、従事者には十分な教育の機会が今まで以上に必要となっている。
同社が用意しているのは、改正法のポイントと従事者の職責を伝える講座のほか、通報窓口担当者向けの「聴くためのスキルアップ研修」(ウェブ講座)だ。
まず、「ベーシック」では、同社の電話相談員が実践している「通報者の話を聴き取るコツ」を紹介する。あいづちの打ち方、伝え返しの仕方、要約の仕方、気をつけたい言葉などについて伝授する。目の前の人に信頼してもらうために、寄り添い、勇気づけるためのノウハウだ。その後、参加者同士にロールプレーイングで実際に体験してもらう。
「ベーシック」受講に続いて、「事実確認のための訊(き)く」スキルを加えた「アドバンス」がある。さらに、聴き取り後の調査・対応に特化した「通報対応スキル研修」か、ハラスメント相談に特化した「ハラスメント相談窓口担当者研修」などにも参加することで、新任担当者はもちろん、ベテラン担当者の振り返りにも役立っている。
社会ニーズを先取りした新しいサービスを生み出すために、担当者自身も勉強を怠らない。NPO法人日本経営倫理士協会(ACBEE)の経営倫理士講座受講もその一つといえる。同社には現在、経営倫理士(総合コース・初級コース)計13人が在籍している。
≪メモ≫
- ダイヤル・サービス株式会社 1969年設立、資本金1億円
- 今野由梨代表取締役
- 本社・東京都千代田区九段南
- 一般社団法人経営倫理実践研究センター(BERC)会員
(ACBEE企画担当 春名 )