«2» ニューノーマル(新常態)が考えさせてくれたこと 

総合企画委員・事務局次長
経営倫理士 川瀬 暁

 新型コロナウイルスの感染拡大の勢いは止まらず、夏場には全国で千人を超える新規感染者が連日のように報告され、年初の発生から10カ月、この原稿を書いている時点での累計感染者数は8万人を超えた。

❖オンラインで生活・仕事が回る

 感染防止策として仕事では在宅勤務が叫ばれ、急速に広がっている。IT機器やシステムを活用した在宅勤務やオンライン会議で仕事が回ることを私たちは実感し始めている。いわゆる「ニューノーマル(新常態)」という言葉で代表されるように、これまでの常識が変わりつつある。仕事だけではなく家庭生活でもあらゆる分野で影響を受け、新型コロナ対応のための変化を求められているという状況である。

 この変化は良いこともあれば悪いこともある。良い点の代表例は在宅勤務の実施により、通勤時間を削減でき、より時間を有効に使えたり、時差出勤を行うことにより楽に通勤できるようになったことであろう。自分のことを振り返ってみても、これまでは出勤すること自体が仕事と思っていたが、そうではなく仕事の成果を出すことができれば、出勤する必要はないことが分かってきた。
 悪い点は例えば、会社の上司・同僚とのface-to-faceのコンタクト機会が減少するので、どうしてもコミュニケーション不足になってしまうことかもしれない。仕事の成果だけで評価することになれば、その成果に至ったプロセスは軽視されがちにもなり、総合的に仕事を評価することが難しくなるかもしれない。

 ITの急速な進歩や新型コロナ感染拡大のように、変化が激しく何が起きるか分からない時代となり、未来に向けて今何をすべきか、オンライン講座で様々な講演会やスキル習得の場が提供されている。現在の仕事の半分以上は、近い将来AIに取って替わられるであろうという予測ももとに、AIで代替できないスキルを身に付けましょうということもあるだろう。

満足度の高い「良い会社」とは

 では反対に、これまでと変わらず、もしくはそれ以上に未来にわたり大切なことは何だろうか? 人が集まって組織を成し社会の発展のために事業を行っていくのであれば、基本はやはり人だろう。個々人が組織の中で十分に能力を発揮できる仕組みづくり、組織での人間性の追求は社会性とともに水谷雅一先生の経営価値四原理システムで述べられており、普遍的な考え方と言えるだろう。

 私事で恐縮だが、以前からうらやましいと思っていたことがある。私の学生時代の友人が勤務する会社であるが、彼は自分が勤める会社を「良い会社」だと言う。そしてこの友人だけではなく、この会社に勤務する他の社員数人とも話をする機会があったが、やっぱり皆さん「良い会社」だと言う。 残念ながら私が長年勤務した会社は、感覚的ではあるが他人に「良い会社」だとは言えないし、これまでのビジネスパーソンとしての経験でも、数多くの取引先の方々と付き合いがあったが、自分の会社を「良い会社」と言っていた人にはあまり出会ったことがない。もちろん中には謙遜もあり、そう思っても言わなかったという人もいるだろうが、「良い会社」と言える人は少数派と言っても良いのではないだろうか。

 社員に「良い会社」と思われる会社は、ES(Employee Satisfaction)が高い会社ということになる。どうすればこのような会社をつくれるのか。当然だが一朝一夕にはなしえない。経営トップが強く意識してバランスの取れた経営を行い、誰もが共感できる企業文化を持っているに違いない。今回の新型コロナに見られるように、これから何が起きるか分からない。これまで成果のあった戦略も経営フレームワークも、ある日突然全く機能しなくなっても何の不思議もない時代である。何よりも強いのは社員をはじめとした社会に受け入れられる「企業文化・風土」ではないだろうか。これだけは他社がすぐには真似できない。機会があれば、この会社の社長にお会いしてみたいと考えている。