総合企画委員・事務局次長
経営倫理士 川瀬 暁
街を歩くビジネスパーソンや政治家が目立つバッジを襟章にしているのをご覧になった方も多々いらっしゃると思う。2015年に国連が、それまでのMDGs(Millennium Development Goals)の後継として発表したSDGs(Sustainable Development Goals)である。日本政府も首相を本部長とする推進本部を設置し経団連も旗振り役となっているので、特に経団連加盟企業である大企業は社員にこのバッジを配って前向きな取り組み姿勢を示している。
❖“wash企業” 何事もブームになれば…

このSDGsの詳細説明はここでは割愛するが、しばらく前からCSR関係者の間では、「SDGs wash企業が増えてきた」と言われてきた。何のことかというと、実際にはあまりやっていないのにSDGsにまじめに取り組んでいると言っている、いわゆる「みせかけ」の企業が増えているということである。この言葉はもともとwhitewashという、英語で「うわべだけ」「誤魔化す」との意味から来ている。環境問題が大きくなった2000年前後にこの言葉をもじってgreenwashという言葉がよく聞かれた。環境問題に真剣に取り組んでいるように見えて、実際にはなにもやっていない企業のことを指した言葉である。そして今回はSDGs washである。何事もブームになれば大半の企業は右へ倣えの行動をするが、その本質を理解している企業、もしくは計画的に実績をあげる実力を持った企業は、まだ多くないということになる。

2年ほど前のことだが、ある地方に本社がある一部上場企業に招かれ、グループ企業を含めた役員100名くらいの方を対象にCSR講演を行ったことがある。講演後幾つか質問を頂いたが、その中の1つが、今はやりのSDGsをその企業のブランディングに利用できないか という内容だった。 SDGsをマーケティングに活用し、他社との差別化を図るにはどうすれば良いか、というよくある質問であったが、多くの企業がSDGsを掲げているので差別化にはあまり役立たないであろう。
❖CSR積み重ねが社会を変える
CSRでもSDGsでもある概念が社会に広まってくると、そのブームに乗ってあまり実態が無いけれども、とにかくアピールしようとする、いわゆる「wash」企業が出てくることは仕方がないことだと思う。CSRという言葉が広まり、それまで何もしていなかった会社が事務所の周りの掃除をしたり、地域活動に寄付を始めたりする。この積み重ねが社会を変えると考えれば、この会社が本業を通じたCSR活動を実践していなくても問題ではない。ブームに乗るために始めた活動であっても、その結果社会全体の底上げができれば、素晴らしいことだ。そして今回はSDGs。企業の活動を通じ一人でも多くの人がSDGsに関心を持てば、最初のステップは成功と言えるだろう。
17の目標は世界の「社会課題」リストでもある。そういえば、昨年くらいからTVCMや新聞広告などで、「社会課題」の解決に取り組みますというフレーズが急速に増えた感じがする。それだけでもSDGsの効用があったと言えるかもしれない。