総合企画委員・経営倫理士
見里 朝士(味の素株式会社)

先日、1月5日付で東洋経済誌のウェブサイト上に掲載された、福島県立医科大学医学部の大平哲也疫学講座主任教授による新書『感情を“毒”にしないコツ』を紹介する記事、≪「病気になりやすい職場」「なりにくい職場」の差 ~上司の質で「心臓病になるリスク」まで変化する~≫を興味深く拝読しました。記事は、仕事の性格を「要求度」の高さ、および自らの裁量の度合いを示す「コントロール度」の高さと、病気のなり易さの相関関係を示すとともに、上司の質が如何にそのリスクを低減する重要な要素となり得るかを示しています。
❖「要求度」「コントロール度」による病気リスク

まず前者の仕事の「要求度」および「コントロール度」と病気になるリスクとの相関ですが、最もストレスが低い「要求度は低いがコントロール度は高い」仕事と比べて、最もストレスフルな「要求度は高いがコントロール度は低い」仕事は、脳卒中になるリスクが2.73倍も高くなるという研究成果が得られたとのことです。また、仕事の「コントロール度」だけに注目しても、「コントロール度」の低い人は高い人に比べて自殺が4.1倍も多いと言います。
会社には様々な種類の業務があり、コントロール度が低い業務でも誰かが遂行せざるを得ず、仕事の選り好みはできない状況は誰しもが経験したことだと思います。しかし、意図的に特定の部下に「コントロール度が低く、要求度が高い仕事」ばかりを命じたり、逆に「コントロール度は低くても要求度も極度に低い仕事」しか与えないとなると、話は異なります。昨年6月に施行されたパワハラ防止法(労働施策総合推進法)でも示される、パワハラの6類型のうちの「過大な要求」もしくは「過小な要求」であるとして、パワハラとして訴えられる可能性があるからです。
❖直接の上司こそが最大の労働条件
次に後者の上司の質に関して見てみましょう。上司のリーダーシップを、①必要な情報を与えているか(情報提供)、②仕事の目標を明示しているか(目標提示)、③部下に何を期待しているのかを把握しているか(期待)、④部下の育成と管理に十分な時間をかけているか(育成管理)、の4点で捉えて心臓病になるリスクとの相関を調べると、この4点を意識している上司の下にいる部下は、明らかに心臓病になるリスクが低減するそうです。
言うまでもなく、周りからのサポートの有無が仕事によるストレスの度合いを左右しますが、上司のサポートがない状況、さらには上司自身がストレスの種となってしまうと、もはや悲劇でしかありません。労働組合の役員を過去20年間勤めてきた自身の経験からも、直接の上司こそが最大の労働条件であると実感しています。担当している業務に関して、必要な情報を与えてくれ、目標を明示し、自分への期待を示して、育成と管理を心がけてくれる上司の下で、部下は健康で安心して仕事をすることができ、それが結果へと結びついていくことと信じています。また、コロナ禍によるコミュニケーションの希薄化が不正/不祥事の温床となるリスクが懸念される状況にありますが、従業員が不満やストレスを溜めずに働ける環境こそが、不正や不祥事を起こしにくい職場を作り上げるためのキーでもあると考えます。