総合企画委員・経営倫理士
新田 香子(株式会社アデランス)
人々が集まる機会が失われてから、もう1年が過ぎようとしています。会社の懇親会や友人との会食、映画や舞台、お祭りから結婚式やお葬式まで、昨年4月の緊急事態宣言以降、交流する場が突如なくなってしまいました。昨年の新語・流行語大賞は「3密」でしたが、相手との距離を保つことが求められ、いまや日常の新ルールとなっています。
❖「直接コンタクトなし」のメリットも

コロナ禍の中で、私たちの暮らしや意識にも変化が起きました。我が家ではタオルがペーパータオルに変わり、食事は銘々皿で提供するようになりました。最初は不慣れだったテレワークやリモート会議も一般化し、東京都の調査では都内の企業のテレワークの導入率は、2020年3月では24%にとどまっていたのに対し、2021年1月には57%と大幅に増加していることがわかりました。
当社では毎月全国から部長が集まっていた営業会議も、すべてリモートに変更となりました。100名近い参加者でパソコンが苦手という人もおり、最初は「顔を合わせないと話ができない」という声も多く聞こえました。直接のコミュニケーションの良さはありますが、移動時間がかからない、コスト削減につながるなどのメリットにも気づき、ネット環境を安定させるために発言しない時はビデオカメラをオフにしたり、チャット機能を利用して発言するなど、工夫した使い方も編み出されてきました。
❖“変えないこと”の大切さも
この1年間は、大きな変化を余儀なくされた一方、変えないことの大切さも感じています。
当社では、商品回収と環境保全をつなげる植樹活動を長年続けています。その植樹先のひとつに、浜松にある森林公園のアカマツ林を守る活動があります。静岡県立森林公園は面積215ヘクタールの広大な土地で、環境省から生物多様性保全上重要な里地里山にも選定されているほど豊かな自然が特徴です。2011年の東日本大震災の影響で松くい虫の防除剤をまくヘリコプターが確保できず、アカマツが枯れて10年前の3分の1にまで減少してしまいました。豊かな林の再生活動に協力するため、地元静岡県にある店舗のスタッフを中心に植樹活動を行っています。
❖今できる“考道”を前進する

ッフ たち =今年 1 月 1 9 日 、 静岡 県立 森林 公園 で
アカマツの苗木は寒い時期でないと根付くことができません。今冬の実施については様々な不安や葛藤の中、何度も検討されました。最終的に、自分たちの手で継続することに意義があるとの思いに達し、参加人数を最小限に絞り徹底的な感染症対策のもと、100本の苗木を無事に植えることができました。参加者からは、経験により環境保護への意識が高まり周囲に伝えていきたいとの思いが強まったとの感想が多くありました。また、昨年植えた時は20センチほどだった松の苗木が1メートルほどにまで成長しているのを目にし、生命の持つ力に元気づけられたような思いでした。
山には痩せ尾根という言葉があります。左右が険しい谷の狭い道は、常に慎重さが必要ですが、少しずつでも足を前に出さないといつかは落ちてしまいます。コロナ禍の中では、痩せ尾根を歩くような限られた選択肢の中で、今できることを“考動”することが求められています。見極めは大変難しいことですが、その先には、笑顔につながる未来が待っていることを信じ、前に進みたいと思います。