(17)「タコの心身問題」という本が面白い

ACBEE総合企画委員 鈴木 威生(大塚製薬)

 「タコの心身問題」という本が面白い。タコというのはなかなか賢い生き物で、その賢さを示すエピソードには事欠かない。迷路を解いたり、瓶の蓋を開けて中の食料を取り出したりする。研究用に飼育されているタコが人の顔を1人ずつ記憶しており、嫌いな人が近づくと水をかける。水槽の中の電球をわざと壊して遊ぶのは、ショートして停電が起きるのを楽しんでいるようにも見える。水槽の中に薬瓶を入れてやるとそれで遊ぶタコがいる。タコが水を噴射すると薬瓶は遠ざかっていくが、水槽の給水弁から入ってくる水流によってしばらくすると戻ってくる。そうして薬瓶を繰り返し行ったり来たりさせて遊ぶのである。タコと人間は違った進化の過程を辿っているが、どうもタコも認知能力を持っていて、知性とか心に相当する部分を持ち合わせているようである。

■周囲の環境に合わせ変幻自在

 ところで、タコと人間の構造上の違いは何であろうか?人間の身体は脳によって中央から集中制御されている。タコの場合は小さな脳は持っているが、神経細胞は身体中特に8本の腕に分散して大量に存在している。これによってタコの腕は感覚器だけでなく臭覚、味覚も持つようになり身体の制御機能を持つ。タコの驚くべきことは、脳から発せられる「中央の命令」と、神経細胞で満たされた腕による「現場の判断」のバランスで、自らの身体を自在に制御し、あるときはミサイルのように流線型になり、あるときは目より少し大きいくらいの穴を通り抜ける。周囲の環境に合わせて変幻自在に自らの身体を操っているのである。タコは「小さな脳」と「8本の腕」身体全体で考えているのだ。

■ガバナンス体制と現場の自主性の両立

 この本を読みながら、脳と腕のバランスのことを考えていたら、まったく違う話だが企業のガバナンス体制と現場のパワーバランスのことが連想されるようになってきた。ガバナンスが強すぎると現場の自主性が阻害されてしまい、現場は自ら自律的に考えて行動することを止めてしまう。すると企業の収益力や生産性の低下につながってしまうことが危惧される。逆に現場が強すぎると現場が暴走したり、企業倫理を逸脱してしまう危険は高まる。

 ガバナンスで大事なポイントは「中央のコントロール」と「現場の判断」が協調していて、ガバナンス体制と現場の自主性が対立せず両立している状態のことではないだろうか。「中央のコントロール」と「現場の自主性」のバランスが大事なのかもしれない。

 もしかしたら、企業ガバナンスはタコ型コントロールが大切なのかもしれない。そんなことを考えていたら、居酒屋でタコ刺しを注文できなくなってしまった。。。

(※「タコの心身問題」  Peter Godfrey-Smith著 みすず書房)