(21)ドラッカーと働き方改革

ACBEE常務理事・総合企画委員 北村 和敏(大塚製薬工場)

 黄金時代のギリシャ文化を代表する建築といえば、すぐにアテネのアクロポリスの丘にそびえ立つパルテノン神殿を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。このパルテノン神殿の建設時に面白いエピソードがあります。

■ギリシャ天才彫刻家の高額請求書

 この神殿の天井の彫刻を請け負った天才彫刻家フェイディアスは素晴らしい彫刻像を完成させ、それに掛かった費用をギリシャ政府に請求しました。しかし、その請求書を見た会計担当の役人はあまりの高額さに驚き、フェイディアスに向って言うのです。「天井の彫刻像の背中の部分など誰にも見えないのだから必要ないではないか」と、減額を要求します。それに対してフェイディアスはこう言い放ったのです。「いや神々が見ている」と。

■仕事で人格を磨くということ

 このエピソードに若き日のドラッカーは、仕事に対して手を抜かないフェイディアスの姿勢に対して大きな衝撃を受けています。ドラッカーは生涯を通して仕事へのこだわりと、より良いものを作品として世に出す努力を惜しみませんでした。

 ドラッカーが日本画とくに室町時代の禅画に興味を持ち、日本好きになったのは有名ですが、この禅の世界もこだわりと道を究めることを求めます。むしろ日本人は仕事で成果を出す以上に、仕事で人格を磨くような禅の思想をこの時代から持ち始めたのかも知れません。

 仕事の細部にこだわれば当然、生産性は落ちます。最高級品質を求める日本人の職人気質は、今も日本人の働き方に色濃く残っています。ドラッカーはこのより良いものを創っていく姿勢が根付いている日本人に共感を持ったのです。

■日本人の仕事へのこだわり残し「継続と改革」

 それが今、「働き方改革」と称して政府は、日本人の働くということに対する考え方そのものを改革しようとしています。この背景にはもちろん、労働人口の減少、長時間労働、少子高齢化、労働生産性などの課題が挙げられます。これらの課題をクリアしていかなければ、次世代の日本社会の安定が保てないのも事実です。したがって仕事は成果物を出すための手段と考え、効率良く働き、最高品質ではなく全体最適なものでいいと考えようよとしています。

 しかし、日本人は仕事に対して、成果物を出すための手段以上のもの、自己実現のため、人格形成のための手段という仕事へのこだわりが日本人のDNAには刷り込まれています。この仕事に対する姿勢(精神)を捨て去るのではなく、うまく利用することが大切だと思います。

 日本にはいい言葉があります。「温故知新」「不易流行」です。ドラッカーもまた生涯のテーマは「継続と変革」でした。社会のサスティナブルが彼の思想の中核にあります。日本の中で育まれた、なくしてはいけない部分を残しつつ、グローバルの世界で生きるための、真の「働き方改革」をドラッカーは日本に期待していたようです。