製薬2社(GE系)の不正の構図と課題

 ジェネリック医薬品(後発品)有力メーカーの小林化工と日医工が不正製造などで行政処分された。ガバナンスとコンプライアンスが問われているが、失った信頼の回復をどう取り戻すのかが最も大きな課題だ。

承認書は無視、二重帳簿も

 「愚直に、しっかり再点検し、品質を担保できない製品以外は市場に流通させない。ジェネリックメーカー各社が矜持をもって取り組むしかない」。3月30日の記者会見。日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)の澤井光郎会長が切り出した。
 冒頭の発言には、会員だった小林化工(福井県あわら市)と日医工の富山第一工場(富山県滑川市)が相次いで不正製造などで行政処分され、ジェネリックメーカー業界への信頼が大きく揺らいでいることが背景にあった。
 小林化工は、睡眠導入剤が混入した水虫治療薬を製造・出荷し、健康問題に発展した。今年2月、福井県から「医薬品・医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等の関する法律」(薬機法)違反で過去最長の116日間の業務停止処分と業務改善命令を受けた。
 小林広行社長は「(製造の基準や手順などを記載した)承認書に従わず、ダブルチェック(製造段階と検査出荷段階)もできなかった」と釈明した。
 しかし、長い間、二重帳簿を作成して悪質な製造を隠蔽するなど営利優先の経営手法とともに、行政チェックの甘さが問題視されている。
 影響は同社に製造などを委託している先発品(新薬)メーカーや、品不足が生じるなど医薬品流通にも少なからず打撃を与えた。
 小林化工が行政処分を受けてから1カ月も立たない3月上旬、今度は、日医工・富山第一工場が富山県から32日間の業務停止命令と24日間の医薬品製造販売業・業務停止処分を受けた。同工場でも承認書を無視した方法で多数の医薬品を製造し、自主回収に追い込まれた。
  GE協会は小林化工を除名、日医工の正会員の資格を5年間停止した。

生き残るため海外進出

 人の命と健康に寄与すべき医薬品メーカーが、なぜ、問題を起こしたのか。
 小林化工の問題が発覚した直後、厚生労働省経済課長は医療制度や薬価などを審議する中央社会保険医療協議会で「一義的には、製造管理や品質管理は企業が実施することが重要だ」としてメーカーのガバナンスとコンプライアンスの欠如を指摘した。
 確かに、小林化工と日医工の不祥事の直接原因は、企業のガバナンスとコンプライアンスの欠落にあったと言わざるを得ない。だが、政府の医療政策やジェネリックメーカーの経営実態にも一因がある。
 ジェネリック医薬品は先発品(新薬)の薬価が3~5割程度安い。政府は医療費を抑制するためジェネリックの使用拡大を推奨し、当面の目標を「数量シェア8割」とした。
 その結果、薬価引き下げで苦戦する先発品メーカーをしり目に、ジェネリックメーカーは急成長。日医工の売上げは全国内製薬メーカーの中で8、9位を確保するまでになった。
 GE協会のまとめによると、2020年度第3四半期(10~12月)のジェネリック医薬品のシェアは79.4%、政府目標の8割は目の前だ。保険者の使用割合(20年9月時点)では、中小企業の全国健康保険協会は79.2%。公務員らの共済組合では88.9%にも達している。


 だが、ジェネリックメーカーの販売戦略担当役員は「ジェネリック医薬品の販売は既に頭打ち。同業間の競争が激しく、どこのメーカーも生産性の向上やコストダウンを迫られている」と話す。国や地方自治体はこうした経営内容や製造現場を把握していなかった。信頼回復には行政による相応の関与が必要ではないか。
 ここ数年、海外進出に乗り出すジェネリックメーカーが増えている。ライバル関係にある日医工と沢井製薬はともに米国のジェネリックメーカーを買収し、米国内でのシェア拡大を目指している。先の役員は断言した。「国内販売やコスト削減には限界が見えている。海外進出は生き残るためだ」と。
 一方、今回の不正製造や新型コロナウイルス治療薬の開発で分かったことは、多くの原薬を中国に頼っているという現実だ。インドのように国策としてジェネリック開発を支援している国もある。
 経営者や管理者にひたすらガバナンスとコンプライアンスの厳守を訴えているだけでは、日本の医療に先はないことは確かなようだ。

福祉ジャーナリスト 楢原 多計志