急がれる外国人労働者への支援

日本人との共生を真摯に考える時

 日本国内で就労している外国人労働者が苦境に立たされている。新型コロナウイルス感染症の拡大で失職したり、転職ができなかったりしているためだ。今年3月、厚生労働省は外国人雇用対策の在り方を議論する有識者会議を立ち上げたが、外国人労働者問題への行政対応の遅れが指摘されている。一方、国民の関心も高いとは言えず、外国人との共生の道は依然として遠い。

失職そして帰国困難

 「いつ、またクビになるのか、不安で、不安で…」。3月末、技能実習生のベトナム人男性は神奈川県川崎市内の製菓工場を解雇された。新型コロナウイルス感染症拡大による経営難を理由にベトナム人5人が解雇された。NPО法人の支援で5月から同市内の食肉加工所でアルバイトしているが、いつ解雇されるのか不安でならないと漏らす。
 出入国在留管理庁によると、2020年の外国人入国者数(新規入国者と再入国者の合計数)は約431万人。前年より86%も減った。新型コロナウイルス感染拡大に伴う入国制限が影響した。
 雇用調整によって技能実習生や留学生アルバイトが解雇されるケースが増えている。現在、約40万人いる技能実習生の場合、制度上、あらかじめ決められた職場(研修現場)以外では働けない(転職禁止)。日本人のように、解雇されたら、雇用(失業)保険受給、そして転職・再就職─というプロセスはあり得ない。
 技能実習生の場合、失職したら受入機関である監理団体に相談したりして再就職先を探すのが一般的だが、監理団体の職員は「このコロナ禍、合法かつマッチした仕事に就くことは簡単ではない」と指摘する。一方、志半ばで帰国を決意しても出入国制限のため帰国できず、生活困窮に追い込まれる外国人が後を絶たない。
 地方自治体の対応は依然として鈍い。技能実習制度上、自治体は技能実習生の保護と必要な施策を実施する努力義務がある。ところが、実態すら把握していなかったり、対策を監理団体や事業所に丸投げしたりする自治体が少なくない。
 技能実習生が所在不明になったり、生活苦から犯罪に手を染めたりして社会問題化する背景には、事業者の身勝手な「使い捨て」や、監理団体や自治体の責任回避が潜んでいる。

■厚生労働省_第1回「外国人雇用対策の在り方に関する検討会」(3月19日オンライン開催)
配布資料2-1①外国人雇用状況の概況より抜粋 出典:厚生労働省WEBサイト

特例で転職が可能に

 こうした実態を踏まえ、入官庁は昨年4月、技能実習生の支援策として在留資格の「特定技能」について1年限定で、新たな受け入れ先で就労できるよう特例で規制を緩和(転職容認)した。
 特定技能制度は、相手国との2国間協定によって日本での技能習得を目指す技能実習制度とは異なり、介護などの14業種ついて一定レベルの技能を持っている外国人の就労を促すことを目的としており、最長5年の滞在も可能だ。ただし、更新には日本語や技能のレベルアップが要件となっている。
 今年2月末時点、特例措置によって就職や転職した人を含め特定技能の資格で就労する外国人は約2万386人。特例は1年限定であり、外国人労働者の就労不安を全面的に解消する施策とは言い難い。
 今年3月、厚労省は有識者らによる「外国人雇用対策の在り方に関する検討会」を立ち上げ、ようやく外国人の就労問題に正面から向き合うことになった。外国人労働者需給や求職、労働移転、賃金構造などのデータをベースにして「新型コロナウイルス感染症禍の雇用の在り方」や「日本人との共生社会実現」、「留学生の就職問題」などについて議論し、6月ごろ、報告書をまとめる。
 20年10月末時点、外国人労働者数は172万4328人。政府はうち約4万6000人を「生活困窮者」とみなし、関係省庁は緊急支援を急いでいる。 コロナ禍は少子高齢化と人口減少を少なからず加速させ、労働者不足をより深刻なものにする。労働者不足による経済停滞や財政悪化は医療、介護、年金、福祉など社会保障制度を根幹から揺るがし、現役世代に過酷な負担を強いる。外国人労働者の雇用と共生は他人事ではすまされない。

福祉ジャーナリスト 楢原 多計志