条件付きでオンライン診療を恒久化

医師の能力向上と患者の理解が課題

 パソコンやスマートホンなどで初診の段階から受診できる「オンライン診療」が条件付きで恒久化(制度化)されることになった。患者にとって、いちいち病院やクリニックに出向かなくても自宅や職場から医師に診断や治療してもらえることは朗報に違いない。だが、画面や音声だけで正確な診断ができるのかどうか。患者は誤診から身を守るためにもオンライン診療を理解しておく必要がある。

時限的な措置」から恒久化へ

 6月8日、河野太郎行政改革担当相は記者会見で初診を含めてオンライン診療を恒久化する方針を明らかにした。18日にも閣議決定する2022年度規制改革実施計画に盛り込む。同時に薬剤師が行う「オンライン服薬指導」についても恒久化する。 
 「オンライン診療」と「オンライン服薬指導」は、新型コロナウイルス感染症の拡大に対処するため昨年から実施されているが、制度的には「時限的な措置」であり、正規に認められた医療制度ではない。
 1日、政府の規制改革推進会議は菅義偉首相に提出した答申の中で「様々な理由で受診や服薬指導が困難な患者の受診機会を確保するとともに、医療サービスの効果的・効率的な提供に資する極めて有効な手段になっている」と評価し、恒久化を促した。
 要は、「オンライン診療」と「オンライン服薬指導」は便利な上、医療費抑制にも叶うと提言した。医療費給付費の抑制を切望している健保連や経済団体の意向に応えた格好だ。
 また同会議は、医療現場のデジタル化の遅れを厳しく指摘し、今年度中に文書作成や情報共有、治験データなどのデジタル化を求めた。
 日本の医療現場では、デジタル化の遅れが目立つ。欧米先進国などと比べ、新型コロナウイルス感染症治療やワクチン接種の対応ではっきり分かった。同会議は「医療現場の大半は未だに人出を介した作業や紙でのやり取りが基本になっている」と問題提起した。その通りだ。

能力アップして機能分化を

 しかし、現時点でオンラインによる診療や服薬指導を無制限に解禁するには、かなりのリスクを伴う。日本医師会や日本薬剤師会などの主要な医療提供団体が難色を示している理由の1つでもある。
 例えば、オンライン診療の場合、医師はパソコンなどの画面やテレビ電話から患者の異変や容体、危惧される疾患などを判断しなければならない。患者と直接向き合う「対面診療」による問診では体全体の状況や臭気などまで把握できるが、現状では、オンラインは不可能だ。それに端末機器の性能や整備状況によって患者の細かな異変に気付かないケースも考えられる。初診は難易度がさらに高くなる。
 東京・大手町で外来診療とオンライン診療を同時に行っているベテラン内科医は「オンライン診療は医師なら誰でもやれるわけではない」と言い切る。それなりの知識と経験、それに患者とのコミュニケーション力が不可欠だという。一方、患者も「特に初診を受ける前にオンラインの基礎的に知識や限界を知っておいてほしい」と言う。
 こうした懸念を受けて厚労省は5月31日のオンライン診療の専門会議で恒久化の条件を示した。受診歴のない患者の初診では、必須の医学的情報として「過去の診療録」や「健康診断結果」、「(かかりつけ医などの)診療情報提供書」、「地域医療情報ネットワーク」などを例示し、今秋、改定するオンライン診療ガイドラインに盛り込む方針を示した。委員から「お薬手帳」や「人間ドック結果」なども活用する提案が出た。
  医師の間では、依然として「対面診療が原則だ」という考えが強い。しかし、財源や医療スタッフなどの医療資源が限られてきている現状では、オンライン診療の活用が避けられず、機能分化が必要だ。また病歴や健康診断結果などのデータが欠かせない。それに医師などのオンライン能力を高めなければならない。一方、患者には対面とオンラインの正しい使い分けが求められている。

福祉ジャーナリスト 楢原 多計志