医薬品卸業の談合、厳しく断罪
独立行政法人地域医療機能推進機構が発注した医療用医薬品の入札をめぐる談合事件で、東京地裁は6月30日、独占禁止法違反に問われた医薬品卸業のアルフレッサホールディングス、スズケン、東邦薬品の3社と違反当事者の社員7人に有罪判決を言い渡した。判決は「国民生活に影響を及ぼす悪質で重大だ」として糾弾した。医薬品業界では、小林化工と日医工の不正製造問題や小野薬品社員が関与した三重大贈収賄賄事件(有罪判決)など不祥事が相次き、信頼が大きく揺らいでいる。業界全体の改善が問われている。
法人に罰金、担当者は猶予刑
判決によると、アルフレッサに罰金2億5000億円(求刑、罰金3億円)、スズケンに罰金2億5000万円(同、3億円)、東邦薬品に罰金2億500万円(同、3億円)。
個人として、スズケン元病院統轄部長、東邦薬品の元病院統括部長、アルフレッサ元病院統括部長ら7人に懲役2年~1年6月(いずれも執行猶予3年)が言い渡された。
3社とメディセオ(談合を自己申告したため立件が見送られた)は、共謀して2016年6月、同機構が発注した医薬品(57医療機関分)を入札する際、事前に自社が取り扱っている医療品の受注比率などして受注予定事業者を調整していた。
判決は「落札価格の合計額は1400億円を超える大規模であり、受注調整によって販売価格を高止まりさせ、薬価改定にも影響を及ぼし得る」と影響の重要性を指摘。「今回の行為は国民生活に広範な影響を及ぼす悪質かつ重大なものだ」と断罪した。
背景に薬価引き下げ
「医薬品卸業界で談合が繰り返されている」という噂が絶えず、今回、有罪になった3社を含む9社は03年にも共謀して受注調整した事実(課徴金の納付命令)が発覚した。判決は「いずれも根深い談合体質に基づいてなされた」と断じた。
談合の背景には、卸業者の厳しい経営事情がある。医薬品の公的価格を決める※薬価基準改定(薬価改定)は2年ごとの診療報酬に合わせて実施され、薬価が引き下げられ、経営環境が悪化している。※2021年度から毎年改定に変更された。
医薬品卸業の経営は厳しさを増している。チェーン調剤薬局が全国展開を進めていることもあり、医療機関や調剤薬局から医薬品卸業者に値引き要求(バイイング・パワー)が強まり、収益確保が厳しくなっている。さらに新型コロナウイルス感染拡大で医薬品の不足や欠品の対応にコストが掛かっている。

透明性ある薬価決定プロセスを
薬価制度は国が決めた公定価格(薬価)と市場での実勢価格の差をなくすために実施されている。メーカ―は卸業者への納入(仕切り価格)を上げて安売りを防ぐことになる。一方、医療機関や調剤薬局は経営資源としての薬価差確保のために動く。このためバイイング・パワーがますます強まり、卸業者は合併統合などによって対抗してきたものの経営規模の違いもあり、劣勢に立たされている─というのが実態だ。
薬価は厚生労働大臣が中央社会保険医療協議会(中医協)の審議報告などを受けて厚生労働大臣が決めるが、いまの薬価決定システムには問題が多い。新薬や長期収載品などの薬価決定(改定)や費用対効果の在り方、薬価調査の方法など専門的な課題にとどまらない。最大の問題は公的医療保険の最終負担者である患者(広義には被保険者)不在のまま薬価格決定が行われていることだ。
中医協の場合、提供側の委員は日本医師会や病院団体など、一方の支払い側は健保連や国保、経団連、連合などが占める。公益委員には学識経験者が多いこともあり、「被保険者の視点」から意見を述べる公益委員は少ないという見方もある。患者団体や消費者団体を定席委員(複数)に加えるべきだろう。
今回の談合事件で医薬品卸業界の変わらぬ談合体質が批判されているが、薬価決定にプロセスに国民の視点を取り入れ、複雑で利害が絡みやすい薬価決定に透明性が求められている。
福祉ジャーナリスト 楢原 多計志