介護職員不足がますます深刻になっている。厚生労働省の推計では、現状のまま推移すると、高齢者(65歳以上)の人数がピークを迎える2040年度には約69万人の介護職員が足りなくなるという。さらなる処遇改善と介護職のイメージアップが必須であり、社会的評価を高めるための施策や教育が必要だ。
毎年2万人以上の上積みが必要
厚労省は都道府県の第8期介護保険事業計画(21~23年度)を基に介護職員数の必要数を公表した。19年度の介護職員数約211万人をベースとし、第8期にどのくらいの介護職員が必要になるか─を推計した。同時に団塊の世代が全て75歳以上となる25年度、高齢者数がピークを迎える40年度の必要数も推計した。
その結果、第8期の最終年度である23年度には約22万人増の約233万人。25年度には約32万人増の約243万人。40年度は約69万人増の約280万人が必要になる。
それぞれの必要数を年単位でみると、23年度までは毎年5.5万人ずつ、25年度は5.3万人、40年度は3.3万人ずつ増やす必要がある。23年度以降、毎年2万人分を上積みしなければならない計算になる。

生産年齢人口の減少が要因
ところが、都道府県の介護職員の供給見込み数を合計すると、25年度は約211万人、40年度は約215万人となり、厚労省が推計した必要数と比べ、25年度で約34万人、40年では約65万人も下回り、大きな乖離がある。
乖離が生じることについて厚労省は「19年度の介護職員数を過不足のない人数として設定しており、実際には、大半の介護現場では介護職員が不足しているため数字が乖離した」と説明した。
数字に乖離があるとはいえ、介護職員がさらに足りなくなることには変わりはない。40年には8万人余が不足する東京都の担当職員は「日本の生産年齢人口(15~64歳)そのものが減っており、数字以上に介護職員の確保が難しくなるだろう」と話した。日本では高齢化と人口減が同時進行しており、生産年齢人口が年々減少する。
平均月額賃金、8.5万円も低い
窮余の策でもある外国人介護職員の確保(例、EPA介護福祉士候補や技能実習生、特定技能資格などによる)も、新型コロナウイルス感染症のまん延で実質的にストップしている。収束後、思うように外国人人材が確保できるかどうか、現状では見通せない。
なぜ、介護人材が確保できないのか。よく指摘されるのが低賃金などの処遇の悪さ。他の産業と比べ賃金や退職金の水準が低い。厚労省は「介護報酬加算や交付金によって介護職員の月額賃金(最高額)が7.5万円改善された」と力説しているが、それでも平均月額給与は28.8万円で全産業の37.3万円と8.5万円の隔たりがある(19年度実績)。勤続10年以上でも年収400万円を超える人はまだ少ないという深刻な状況。
他の処遇にも問題がある。昇給が遅く、キャリアパス制度(経験や資格で昇給・昇進する仕組み)を整備していない事業所も多い。その結果、他産業の従事者と比べ、昇給が遅いうえ、なかなか役職に就けない。訪問介護サービス事業は零細事業所が多く、希望の大きい特別養護老人ホームでは同族による社会福祉法人が多いという介護業界の特徴も影響しているようだ。
あまりに低い社会的評価
最も大きな問題は、介護業界や介護職員に対する社会的評価が低いこと。いまだに「低賃金・3K職場」のイメージを払しょくできない。離職率が高く、福祉系高校や介護福祉士養成校では閉校や募集定員削減が続いている。厚労省は毎年度、予算を組んで「イメージアップ」を図っているが、効果はほとんど出ていない。
大都市圏では、求人募集しても充足しないため、身銭を切って派遣会社に人材確保を頼っている介護事業者が少なくない。必要な職員数を配置しなければ、所定の介護報酬を取得できなくなる。
新型コロナウイルス感染症の拡大によって全国で介護施設がクラスターに見舞われた。厚労省はクラスター発生防止に努める事業者に特例で介護報酬の算定を促した。経営的に一息つくことができているようだが、特例は時限的措置であり、いつまで続けるわけにはいかない。
介護は人命や尊厳に関わる社会にとって重要かつ意義のある仕事の1つ。介護職員の確保が国の緊急課題という社会的な認識が足りない。さらなる処遇改善は当然のこと。政府はデジタル化や大学入試制度改革に熱心だが、2025年度、40年度に備え、初基礎教育から高等教育まで介護教育を必須教科に繰り入れるべきだ。
福祉ジャーナリスト 楢原 多計志