奨学寄附金の在り方、コンプライアンスは…

小野薬品・第三者調査委が厳しい指摘

 小野薬品工業は8月6日、三重大学附属病院の贈収賄事件をめぐって社員2人が有罪判決を受けたことを受けて相良暁社長の報酬返納(3カ月)と市川弘専務執行委員の降格処分を発表するとともに、外部調査委員会の報告書を公表した。調査委報告では、製薬会社による「奨学寄附金」の在り方に対し、厳しく問題を指摘している。

奨学寄附金として200万円

 津地裁は6月29日、贈賄罪(第三供賄罪)に問われた小野薬品工業の元中部営業部長と三重営業所部員の2人に、いずれも懲役8月、執行猶予3年の判決を言い渡した。判決によると2人は手術時の不整脈発生に使われる自社製品の「オノアクト」を三重大病院に積極的に使用してもらう見返りとして、平成30年3月、臨床麻酔部の元教授に現金200万円を提供したと認定した。現金振込先は三重大学。元教授は「第三者収賄罪」に問われた。
 同社は、2人が起訴された2月17日、謝罪コメントを出すととともに、外部弁護士3人による調査委員会を立ち上げ、社内調査を開始。8月6日、処分発表と同時に調査委の報告書を公表した。

まさか「第三者供賄」とは

 報告書(公開版、全49ページ)は、事件の経過や背景について3つのポイントを挙げた。➀2人は准教授(当時)の元教授から研究費不足を伝えられ、『オノアクト』の販売実績に繋がるビジネスチャンスと判断し、奨学寄附金を拠出して元教授に応えることにした➁2017年度奨学寄附金の枠が埋まっていたため、本社の予算余剰枠で拠出してもらうためレポートを作成したり、データの収集などを行ったりした➂取引誘導のための奨学寄附が禁止されていることは一定程度周知していたが、どのようなやり取りが取引誘導に当たるのか、(2人を含め当事者間に)問題認識がなかった―と指摘している。
 ➀➁は他の贈収賄事件に共通しており、目新しさはない。➂の奨学寄附金に対する問題意識の欠如が問題とみられている。調査委の社内ヒアリングで幹部社員から「(奨学寄附金の提供が)第三者供賄という犯罪行為に該当する場合があるとは思いもよらなかった」という声が出たという。

製薬協、厳しい自主規制も…

 製薬会社の奨学寄附金制度には自主規制がある。日本製薬工業協会は奨学寄附金の提供の在り方について「基本な考え方」を示している。➀自社医薬品に関する臨床研究に対する資金提供の支援方法として用いない➁提供に当たっては営業部門から独立した組織で利益相反を十分確認の上、決定する➂奨学寄附金により自社医薬品の臨床研究が行われていることを知った場合、できる限り早期に契約を切り替えること─など、コンプライアンス重視の姿勢が打ち出されている。
 だが、営業部門から独立した部門でチェックするとはいえ、同じ社内で十分なチェックを疑問視する声もある。小野薬品工業は総務部がチェック機能を持つことになっていたが、結果は、コンプライアンスが甘くなり、刑法犯罪に発展したことへの批判はある。
 また医薬製造業界の自主規制である「医療用医薬品製造販売公正競争規約」の「寄附に関する基準」では、製薬業者側の利益が約束されている場合は、取引を不当に誘引する手段としては制限される。しかし一方、医療機関への金銭提供であっても、医学・薬学などの研究、講演会などへの援助であれば、業界の正常な商慣習に照らして適当と認められる範囲内であり、不当な取引を誘引する手段には当たらない─としている。(※①)
 業界の正常な商慣習とはなにか、どういうケース場合がルール違反になるのか、多様な議論がある。具体例を交えた明確な基準が必要だ。

制度改革で指標の設定を

 報告書は、今回の事件に関する小野薬品工業の対応について「医師個人ではなく国立大学への寄附なら(自社製品の関する提供であっても)、自社製品の取引誘引にはならないなどと、何ら問題意識を持っていなかった」と認識の甘さを強く指摘している。
  そして現行の奨学寄附金制度について「こうすれば、取引誘引に当たらないという自信をもって応えられる指標は見出し得なかった。製薬業界をあげて抜本的に制度を改革するしかないという結論に至った」と厳しい見解を述べている。

(※①)消費者庁と公正取引委員会の承認が必要な公正取引協議会が作成する「公正競争規約」は準法律とみる見解もあり、解釈と運用には充分な配慮が求められる。

福祉ジャーナリスト 楢原 多計志