介護施設の労災事故が急増

コロナも影響 背景に構造的リスク

 社会福祉施設(主に介護施設)で労働災害の発生に歯止めが掛からず、厚生労働省は介護施設事業者団体に防止を強く促している。新型コロナウイルス感染症の影響だけはなく、慢性的な労働力不足など構造的なリスクが深く関わっており、事業者は対応に苦慮している。

政府目標の達成は困難か

 9月29日、厚労省は全国老人福祉施設協議会などの介護施設事業者団体に労災発生防止へのさらなる取り組みを強く要請した。特別養護老人ホーム(特養)や老人保健施設(老健)などの介護施設で労災が急激に増えているためだ。
 ことし4月末、厚労省が公表した「令和2年の労働災害発生状況」によると、休業4日以上の死傷者数は13万1,156人で前年より5,545人増えた(4.4%増)。新型コロナ感染の罹患も労災にカウントされるため総数が増えた。
 ところが、業種別でみると、常に労災が多発している製造業が2万5,675人(4.5%減)、建設業が1万4,977人(1.4%減)と減少傾向にあるのに対し、社会福祉施設は1万3,267人で3,222人増(32.1%増)となった。新型コロナ感染による労災を除いても1,622人増えており(18.6%増)、社会福祉施設の増加が際立つ結果となった。
 厚労省は労災を全国的に減らすため中期計画「第13次労働災害防止計画」(平成30年~令和4年度)を策定し、2017年比で死亡者数15%減、死傷者数5%減を目指しているが、社会福祉施設で、この状況が続けば、目標達成が難しくなる。

「腰痛」の発生リスク

 厚労省が介護福祉施設での労災の内容を分析したところ、サービス別では、「施設系サービス」を提供している特養や老健などが介護施設が最も発生が多く、ショートステイ(短期入所系)、デイサービス(通所系)などが続いている。
 「施設系サービス」が多い理由について、厚労省は言及していないが、現場から「特養は要介護度の高い入所者が多いためケアそりものが難しい」(特養嘱託医)、「特養や老健の個室では介護職員が1人でケアしなければならず、どうしても無理な動作が生じる」(介護福祉士)などの指摘がある。
 事故の型別では、「無理な反動・無理な動作」が4,199件で最も多く、続いて「転倒」3,892件で、ともに増える傾向にある。「無理な反動・無理な動作」は入所者をベッドや車椅子に移すときに多く起こり、介護職員の職業病とも言える「腰痛」の発生リスクになる。

後手、後手の発生防止策

 「腰痛」などを防ぐ対策として厚労省が薦めているのが介護ロボットの導入や介助用品の利用だ。事業者に対して介護報酬引き上げや加算のかさ上げで支援している。だが、「見守りセンサー」を除き、介助を補助・代行する介護ロボットの導入は予想外に進んでいない。 
 「導入や維持管理の費用がかかる」、「使い勝手が悪い」(信頼度が低い)、「介護職員の習熟が思うように進まない」などの苦情が絶えない。「現場の実用に適した介護ロボットが意外に少ない」(介護福祉士)とのメーカーへの注文もある。
 労災防止の最大の問題は、介護現場の人出不足が依然として解消されていないことだ。介護報酬改定による処遇改善や就労支援策によって2019年の介護関連職種の離職率は14.9%となり、全産業平均の15.6%を下回った。介護関連の離職率が全産業平均を下回ったのは初めて。厚労省は「政策の効果」と自賛している。 

高齢者大国、ひずみ、深刻化

 2020年度の有効求人倍率は平均3.86倍に達で全産業平均の約4倍にも達し、慢性的に人手が足りないことに変わりがない。しかも介護職員の約8割が50歳以上、在宅系のホームヘルパーは約4人に1人が65歳以上だ。若い人材が集まらないのも構造的なリスクと言える。
 厚労省の試算では、2025年に必要な介護職員は243万人。さらに32万人を確保する必要がある。高齢者大国といわれる日本での介護職員不足は、その対応をしきれないまま重要なテーマになっている。

福祉ジャーナリスト 楢原 多計志