医薬品卸業は生き残れるのか

「談合体質」の背景に厳しい経営苦

 11月9日、「国立病院機構」が発注した医薬品の入札をめぐり談合した疑いがあるとして、公正取引委員会は九州に拠点をおく医薬品卸販売6社を独占禁止法違反(不当な取引制限)の容疑で本社などを立ち入り検査した。今年6月には大手卸販売3社が東京地裁で同じ事犯で有罪判決を言い渡されており、あらためて医薬品卸業界の「談合体質」が浮き彫りになった。事件の背景には薬価基準改定のたびに利益確保が難しくなる厳しい経営環境がある。2022年度診療報酬改定と薬価改定の議論が進んでいるが、医薬品卸販売企業は体質改善できるのか。

九州6社 独禁法違反容疑で告発か

 立ち入り検査されたのは、九州地域で強い販売力を持つアステム、アトル、アルフレッサなど6社。2016年以降、国立病院機構が九州で運営する労災病院など31施設が発注した医薬品の入札めぐり6社が談合して受注企業を決め、独禁法(不当取引制限)に違反した疑い。公取委は容疑が固まり次第、告発する方針のようだ。
 昨年12月には、地域医療機能推進機構の医療機関が発注した医薬品の入札で大手卸販売企業のアルフレッサ、スズケン、東邦薬品の3社が談合容疑で告発され、今年6月、東京地裁から3社と関与した社員が有罪判決を言い渡されている(確定)。九州6社の違反容疑は大手3社の捜査過程で発覚したという。

日本独特の商慣習が問題…

 日本の医薬品卸販売は世界的には異質な存在だと言われている。欧米では製薬会社と医療機関・薬局などが直接取引することが多いようだが、日本では、卸販売企業が双方を仲介する形で存在し、医薬品の安定供給に重要な役割を果たしている。半面、水面下では、患者や保険運営者は不在の形で、当事者による激しい駆け引きや大幅な値引き合戦が展開され、前近代的な「商慣習」の1面が残っている。
 日本医薬品卸販売業連合会の2020年度総販売額は9兆円余。国際医薬品卸連盟のアジア理事国を務めている。政治連盟を組織化し、与党に一定の影響力もある。
 しかし、医薬品卸販売はじり貧状態が続いている。大きな原因は医療費抑制策の一環で売れ筋の医薬品は薬価が改定されるたびに引き下げられているためだ。結果、利益を確保したい製薬会社と医療機関・薬局の双方から値引きを求められ、利益確保が難しくなっているためだ。大手薬品会社や大病院、全国チェーン薬局と比べ経営規模が小さく、力関係の差が契約額に表れているとの見方もある。
 2021年3月期決算をみると、業界売上げの約9割を占める「4メガ卸」のメディパルホールディング、アルフレッサホールディング、スズケン、東邦ホールディングは、製薬会社や医療機関などからの引き下げ圧力に加え、新型コロナウイルス感染症拡大や後発医薬品メーカーの出荷調整(不正製造や原材料不足などが原因)が影響し、4社とも利益率が1%にも満たず、減収減益となった。
 医薬品卸販売企業の「談合体質」は以前から指摘されていたが、医療制度改革や薬価マイナス改定が相次ぎ、経営が悪化。企業統合や合併、淘汰によって連合会の会員数はピーク時の615社(1978年)から70社に激減。「談合に乗らなければ、生き残れないことも…という悲痛な声もあった」という。

制度に反映しない卸販売

 「自助努力だけで医薬品の安定供給を維持し続けることはもう不可能だ」。11月5日、22年度薬価改定の方向性を議論している中央社会保険医療協議会・薬価専門部会のヒアリングで、同連合会の発言者は薬価制度と医薬品流通の見直しを強く求めた。
 同連合会は、かねてから薬価制度の中に卸販売をきちんと位置付け、一定の利益を確保できるようにしてほしいと要求してきた。現行では、薬価(公定価格)と実勢価格の差をベースに議論されており、卸販売企業の救済や位置付けをめぐる積極的な議論には至っていない。
 同連合会の役員は「新型コロナ禍や災害時の対処をみればわかるように、会員企業の使命感や企業努力によって安定供給が維持されてきたにもかかわらず、薬価がもっぱら財政論の観点から議論され、卸販売の存在意義が制度に反映されていないのはおかしい」と指摘する。 

ガイドラインの徹底を

 ヒアリングで同連合会は製薬会社や医療機関などの関係者に対し、「流通改善ガイドライン(改訂版)」の遵守を呼び掛けた。
 ガイドラインは4年前にも改訂された。行政(厚労省)が介入することによって、それまで半ば放置されていた商慣習を見直すことが大きな目的だった。ところが、その後も、不適正な契約交渉が行われていたり、卸販売企業の談合が相次いだりした。
 来年1月から運用される改訂版は、一連の独禁法違反や新型コロナ対応などを踏まえ、適正な契約や安定供給の維持・強化を目指す。製薬会社は適正価格になるよう卸販売企業と十分協議することや、医療機関・薬局は原則、単品単価で契約すること(総価取引は大幅値引きに繋がる恐れ)、卸販売企業に不当廉売を禁止することなどが盛り込まれた。
 どちらかと言えば、力の弱い卸販売企業を支え、強い立場の製薬会社や医療機関・薬局に自制を求めている。しかし、今回のような談合が繰り返されるようではガイドライン改訂の意味がない。薬価制度の意義や患者の利益を損なうことを正しく認識しなければならない。

福祉ジャーナリスト 楢原 多計志