「報酬体系の再編」求める声も
今年2月から介護職員の月給が3%程度(9000円相当)引き上げられることが決まった。介護や保育、看護などの分野で就労する現場職員が対象。しかし、審議会から「3%程度では人出不足などの根本的な問題は解決しない。介護報酬体系の見直しで労働に見合う賃金にすべきだ」との意見が相次ぎ、介護業界からは基本報酬の大幅な引き上げを求める声が日々高まっている。
賃上げ機運で民間誘導
3%賃上げは、岸田文雄首相が掲げる「新しい資本主義」(経済成長と公平配分)の一環で、介護や保育、障害福祉、看護など「公定価格」の分野の労働者の賃金を3%程度引き上げる。政府による賃上げによって民間事業者の賃上げ機運を誘導し、同時に人出不足を解消するのが狙いだ。
賃上げ額をみると、介護職員、障害福祉の職員、保育士、幼稚園教諭がそれぞれ9000円(3%程度)。新型コロナ医療に従事する看護師は当面4000円(1%程度)とし、将来的に3%に引き上げる。2021年度補正予算案と22年度当初予算案に賃上げの財源が計上された。
介護職9000円アップ
介護職員の場合、引き上げ財源は今年2月から9月までは「介護職員処遇改善支援補助金」(国庫補助金)、10月以降は介護報酬を臨時改定し、基本報酬に上乗する新しい処遇改善加算(新加算)を創設して9000円賃上げを恒久化する。
厚生労働省の「20年賃金構造基本統計調査」によると、常勤正社員の介護職員の平均給与は約23万9800円(一時金除く)。9000円引き上げで約24万8800円になる計算だが、それでも全職種平均より約6万円程度低く、介護事業者は「賃金格差の根本的な解消にはほど遠い」と話す。
3%賃上げには、全職種との賃金格差のほかにも課題がある。訪問介護サービスや居宅介護支援事業所など対象にならないサービス事業があり、介護事業間の格差を拡大しかねない。理由は、対象が現行の「処遇改善加算」を取得していることが要件になっているためだ。
制度上、「処遇改善加算」の設定されていない訪問看護ステーションなどは対象外。当然だが、対象外とされた事業者は猛反発している。
また介護職員以外の職種との不公平感が指摘されている。厚労省は「事業者の裁量で他職種への配分も可能だ」としているが、「それでは介護職員の処遇改善という本来の目的がぼやけてしまう」との声もある。

「加算」ではなく「基本報酬」で
より大きな課題は、介護職員の処遇改善が加算の新設で行われることに批判や反発が出ていることだ。介護事業者や介護給付費分科会(審議会)の委員から「処遇改善は基本報酬をベースにすべきだ」との指摘が相次いでいる。
特別養護老人ホームを経営する社会福祉法人の理事長は「基本報酬が低く抑えられてきたため十分な処遇改善まで行き届かないのが現実だ。基本報酬だけで経営が維持できるような報酬体系の見直しが必要だ」と訴えている。
分科会では「加算や補助金による小出しの改善策では効果が薄い」と費用対効果の観点から批判や疑問が相次いだ。2000年度の介護保険スタートからこれまで計6回の処遇改善が行われ、総額は7万5000円(経験10年以上は2万1000円増)にも達しているが、依然として慢性的な人出不足が続いている。
分科会のベテラン委員は「加算はオプション・サービスへの対価であり、賃上げの財源にすべきではない。介護報酬体系を分解し、基本報酬を軸に再設定すべき時期に来ている。」と抜本的な見直しを提案している。
実は、10月に創設される「新加算」は3つ目の処遇改善加算になる。既に「処遇改善加算」と実務経験10年以上の介護職員を厚遇する「特定処遇改善加算」の2つが制度化されており、2月から「2階建て」が「3階建て」に建て増しされる。介護業界から「事務処理の簡素化の観点からも一本化すべき」の声が出ている。
福祉ジャーナリスト 楢原 多計志