新型コロナ教訓に医療体制見直し

「2022年度診療報酬改定」・答申(上)

 2022年度診療報酬の改定方針が決まった。新型コロナウイルス感染症拡大を教訓にして今の医療制度を見直すことが最大の狙い。懸案だった不妊症治療の公的医療保険適用や医療機関の機能分化や在宅医療の推進策なども盛り込まれた。だが、新型コロナ対応に追われている中で報酬体系や医療体制の抜本的な見直しは先送りされた。団塊の世代が全員75歳に達する25年まであと3年余。政府は25年をにらんで次回改定をめぐる議論を開始するという。

8年連続の本体プラス改定に…

 医療機関や調剤薬局などに支払われる診療報酬は原則2年ごとに改定される。昨年暮れ、政府は改定率(改定に必要な財源枠)を決定。これを受けて中央社会保険医療協議会(中医協、厚生労働相の諮問機関)は医療行為などに対する報酬や薬価の在り方を議論し、結論を厚労相に答申する。新しい報酬は基本的に4月1日から適用される。
 22年度の改定率は、鈴木俊一財務相と後藤茂之厚労相の大臣折衝の結果、診療報酬本体(診療行為や調剤などの対価)は前回比プラス0.43%で、8年連続のプラス改定。また薬価マイナス1.35%、材料価格マイナス0.02%。トータルではマイナス0.94%となった。
 診療報酬本体の内訳をみると、▽医科・歯科・調剤でプラス0.23%▽慢性的な人出不足に見舞われている看護師の処遇改善の財源としてプラス0.20%▽不妊治療の保険適用プラス0.20%▽リフィル処方箋(医師の診察が不要となる反復利用可能な処方箋)の導入と活用マイナス0.10%▽小児の感染症防止対策加算(医科のみ、期限付き)の廃止マイナス0.10%。

譲れなかったリフィル処方箋

 実は、大臣折衝で紛糾したのが診療報酬本体の全体をプラスとするかマイナスとするか─だった。検査、治療、入院、療養、調剤などに多額の保険給付費が支払われるからだ。
 新型コロナで歳出が膨張し、鈴木財務相は診療報酬本体をマイナス改定に抑え込み、医療費の伸びを抑え込む考えだった。財政制度等審議会もマイナス改定を建議していた。
 一方、後藤厚労相は日本医師会や日本看護協会など医療提供団体などからの強い要望もあり、本体のプラス改定の必要性を繰り返し主張した。
 妥協の結果、医療機関の減収に直結する②リフィル処方箋の導入・活用(医療機関は処方箋料などを失う)を盛り込む代わりに、増収や負担軽減に繋がる➀看護師の処遇改善と➁不妊手術の保険適用を盛り込み、差し引き、本体をプラス改定にすることで決着した。
 本体のプラス改定については、医療提供団体だけではなく、自民党の有志による「国民医療を守る議員の会」の働き掛けもあり、財政当局が一歩譲った格好となった。
 鈴木財務相は折衝後の記者会見で「リフィル処方箋は絶対に譲れなかった」と語り、暗に、リフィル処方箋の導入によって本体プラスを最小限に抑え、診療報酬全体をマイナス改定にした自らの「成果」を強調した。

新興感染症にも対応…

 2月9日、中医協は22年度診療報酬改定方針を、厚労相の諮問(案)通り、答申した。改定の基本認識として、新型コロナ対応を教訓にした「新興感染症にも対応できる医療提供体制の構築」、「人生100年時代に向けた全世代型社会保障の実現」、「患者・国民に身近で安心・安全で質の高い医療の実現」、「制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和」の4つを掲げた。次回、基本認識の具体策として答申に盛り込まれた新興感染症対策やリフィル処方箋など改定のポイントを点検する。

福祉ジャーナリスト 楢原 多計志