「2022年度診療報酬改定」・答申(中)
今年4月からオンラインの初診が公的医療保険で制度化(恒久化)される。患者の利便性を高めるためだけではなく、新型コロナウイルス感染で逼迫している医療提供制度を後方から支援する意味合いもある。だが、2022年度診療報酬改定(22年度改定)で新報酬が対面診療より低く設定されたこともあり、先行する医療機関から報酬引き上げを求める声が上がっている。

公益委員の「裁定」で決着
実際には昨年からオンライン初診が行われているが、これは政府による新型コロナ対策の時限的特例措置(コロナ特例)であり、公的医療保険の制度にはなっていない。22年度改定によって4月1日から正式な制度になる。
制度化に伴い、オンライン関連の報酬が引き上げられる。焦点だった初診料は、異例ともいえる公益委員の裁定によって251点(コロナ特例214点)で決着した。再診料は73点(コロナ特例71点)。
初診料をめぐっては、「オンラインは対面診療のように検査や処置ができない」などとして対面診療の報酬より低く設定するよう求める日本医師会(日医)などの診療側と、オンラインの普及拡大を目指して相応の引き上げを主張する健康保険組合連合会(健保連)などの保険者が激しく対立。公益委員が「対面診療288点と特例措置214点の中間程度の報酬とする」との裁定で251点に決まった。
厚労省は近くオンライン初診などの詳しい要件を公表する。現時点では➀初診は原則として「かかりつけ医」が行う➁ただし、患者の診療録や診療情報提供書がある場合や事前相談で医師と患者が合意した場合は可能➂麻薬・向精神薬やハイリスク薬の処方はできない─などが盛り込まれる見通しだ。
対面診療とオンラインに温度差
オンライン初診をめぐる対立には、もともと日医などの診療側がパソコンやスマホなどの情報通信機器を用いるオンライン診療の拡大・普及に前向きではないという背景がある。
2月9日、中央社会保険医療協議会が22年度改定を答申した後、日医の中川俊夫会長は記者会見で「日本医師会はオンライン診療が営利追及の市場になることを認めない。必要があれば、速やかに診療報酬要件の見直しを要請する」と述べ、現行のオンライン診療への不快感をあらわにした。
日医や病院団体が懸念しているのは、オンライン診療が営利目的の事業として全国展開されると、地域医療を担っている「かかりつけ医」(日医会員が多い)がいる医療機関が大きな打撃を受け、地域医療体制が崩壊しかねないからだ。
一方、東京と神奈川で合わせて4カ所のオンラインクリニックを経営している30代の内科医は「患者の利便性だけではなく、医師と対面しないので感染症リスクが軽減できる。オンライン診療は時代のニーズに合致しており、オンライン診療を地域に定着させるべきだ」と対面診療と同等の報酬を要望している。
患者からすれば、診断から医薬品の処方までパソコンやスマホで済ますことができれば、わざわざ病院や診療所に出掛ける手間が省ける。しかし、画像と音声だけで医師が正確な診断や治療を受けられるのかどうか、不安もある。また地元の医療機関が破たんして閉鎖してしまうと、検査が受けられず、入院治療ができなくなる恐れがある。
対面診療とオンライン診療が当面重要な選択肢になってくる。臨床現場の混乱を避けるために第一に患者の立場を考えていかなければならない。
福祉ジャーナリスト 楢原 多計志