「薬価引き下げ」で、6千億円を削減

「2022年度診療報酬改定」・答申(下)

 3月4日、厚生労働省は今年4月1日の2022年度薬価改定を告示した。薬価改定は政府の医療政策や市場原理を反映させて価格調整することが目的で、22年度改定は薬剤費ベースで6.69%(診療報酬全体の医療費ベースでは1.35%)の引き下げとなる。患者や保険加入者からみると、小幅な引き下げとの声もあるが、新型コロナウイルス感染症の影響で受診抑制が続き、販売競争がさらに激化している医薬品メーカー側にとってマイナス改定は少なからぬ痛手となり、対応に腐心している。

1兆円の市場喪失も…

 「業界からすれば、中間改定で4300億円余を失った形で、22年度改定でさらに6000億円を超える市場を失うことになる」と漏らすのは準大手メーカーの執行役員。販売拠点の集約など販売戦略の見直しが避けられないという。
 中間改定は、これまで2年ごとに行われていた薬価改定が毎年改定に変更されたのに伴って21年4月に初めて実施された。実勢価格と薬価の乖離度などを参考にして医療費ベースで1%程度引き下げられ、4300億円余が削減された。
 22年度改定は先に決まった22年度薬価制度改革に沿って行われる。改定の対象となったのは1万3370品目。注目点は①「新薬創出加算・適応外薬解消等促進加算」(新薬創出加算)の対象を拡大する➁売り上げが著しい医薬品の「市場拡大再算定ルール」を見直す③安定確保が必要な「基礎的医薬品」の改定ルールを見直す④原価をベースにして薬価が決まる医薬品について製造原価の開示度を高める─など。

「タケキャブ」16%引き下げ

 「新薬創出加算」の取得は新薬の開発販売に取り組んでいる先発品メーカーにとって必須の課題だ。新薬に莫大な資金を投じており、後発品の発売などによって対象外になると、加算の累積額を返還しなければならず、経営的に大きな打撃になるからだ。
 告示によると、90社の348成分571品目(加算総額約520億円)が「新薬創出加算」の対象となった一方、間接リウマチなどの治療薬「ヒュミラ」(エーザイ)など65成分145品目が加算の累積額(総額860億円)を返還することになった。
 「市場拡大再算定」で注目されていた胃潰瘍などの治療薬剤「タケキャブ錠」(武田薬品工業)は特例が適用され、15.8%の引き下げ。またドライシロップやてんかん治療薬なども20%程度引き下げられた。
 「用法容量変化再算定」が適用された心アミロイドーシス治療薬「ビンダケル」(ファイザー)は75%引き下げられ、22年度改定で最大の引き下げとなった。
高コレステロール血症治療薬「クレストール」(塩野義製薬)や花粉症などの抗アレルギー鼻炎薬「アレグラ」(久光製薬)など18成分54品目には「長期収載品引き下げルール」が適用された。
 「基礎的医薬品」では323成分1004品目の薬価が維持され、安定確保医薬品の一部も追加対象となった。
 「原価計算方式」で薬価が決まる外国医薬品は製造原価の詳細がはっきりしないため「ブラックボックス価格」との指摘がある。このため製造原価の開示度が50%未満の品目について加算係数を現行の0.2から0に引き下げて実質的に加算を不適用とした。

(注)22年度診療報酬改定答申に基づいて作成

長期品メーカーには影響

 22年度改定に対し、日本製薬団体連合会は「イノベーションを評価する方向に向けて一定の改善がみられる」などとコメント。長期収載品の売上割合が大きいメーカーほど影響も大きくなるとみられる。
 欧州製薬団体連合会は「開示度50%未満の加算係数を0に引き下げるのは革新的な新薬の開発や日本導入の妨げになる」と批判している。
 制度上の問題として、薬価引き下げが処方薬の価格や保険料の引き下げに直接結び付かないことがある。薬価引き下げによって生じる財源が医療機関に支払われる診療報酬に充てられることになっているためだ。政府は薬価と診療報酬の関係などをきちんと国民に説明すべきだろう。

福祉ジャーナリスト 楢原 多計志