厚労省、職員配置の実証事業
介護ロボットなどの最新テクノロジーを活用すれば、介護職員の配置削減が可能か─。厚生労働省は実証事業を始めた。人出不足解消と介護費抑制が狙い。厚労省は来年3月までに結果をまとめ、2022年度介護報酬改定の基礎データとして審議会に提示する意向だが、介護現場から「職員削減によって介護の質が落ちる」と反発の声が。改定論議の争点になりそうだ。
テクノロジー活用に注目
実証事業は特別養護老人ホーム(特養)や有料老人ホームなどを対象に、介護ロボットや見守りセンサー(利用者の離床状況をチェック)、ICT機器などの活用状況や仕事の効率化、生産性への貢献、介護職員の負担などを数値化して検証する。
焦点はテクノロジー活用によって人員配置基準を見直すことができるかどうか。例えば、特養は入居者(利用者)3人ごとに介護職員(または看護職員)1人の配置が義務付けられている。業界では「3対1(基準)」と呼ばれている。
ことし2月、規制緩和の在り方を議論している政府の規制改革推進会議は厚労省に基準を緩和する方向で検証するよう求めた。同会議のヒアリングで有料老人ホーム業界大手のSOMPO(東京)が業務の見直しやICT活用などで「4対1」(利用者4人ごとに職員1人)でも運用できると報告した影響もある。
先進的な特定施設(介護付き有料老人ホーム)の人員配置基準について
(注)今年2月17日 規制改革推進会議の議論取りまとめ
- ビッグデータ解析、ICТ技術の最大活用、介護補助職員の活用などは介護人材不足解決に向けた一つの方策になる可能性がある。
- 厚労省は実証を通じて人員配置基準の特例的な柔軟化の可否について介護給付費分科会で議論し、判断する必要がある。
介護の質の保証は…
経団連は「人の手で提供される介護サービスがテクノロジー活用でより高品質となり、慢性的な人手不足の解消になる」と歓迎のコメントを発表した。
厚労省の推計によれば、25年度までに約32万人、高齢化がピークを迎える40年度までには約69万人の介護職員を増やす必要がある(19年度実績で推計)。
また介護費(自己負担含む)が20年度に10兆円を突破し、22年度には12兆円に達すると見込まれており、経団連や財務省は介護費抑制を強く求めている。
一方、介護現場からは「テクノロジー活用に異論はないが、介護ロボットやICTは介護職員の負担を軽くするツールとして位置付けるべきだ。職員削減とセットになれば、介護サービスの質が確実に低下する」(日本介護福祉士会理事)と反発している。
福祉ジャーナリスト 楢原 多計志