「オンライン診療」普及遅れている日本

 4月1日の診療報酬改定でスマートホンやパソコンなどの情報通信機器を使って受診するオンライン診療が拡充された。患者の利便性や新型コロナウイルス感染対策として期待されているが、利用が伸び悩んでいるのが実情だ。欧米で普及が進んでいるが、なぜ、日本では伸びないのか。

最大の争点だった初診料

 ことし1月、2022年度診療報酬改定(22年度改定)の目玉の1つだったオンライン診療の報酬が中央社会保険医療協議会(中医協)の公益委員の裁定で決着した。 
 決着が遅れた原因は、オンライン診療関連の報酬(1点10円)の設定をめぐり、健保連や経団連などの支払い側委員と、オンライン診療のなし崩し的な拡大に反対する日本医師会(日医)や病院団体などの医療提供側委員の対立が解けなかったためだ。
 オンライン診療の普及・拡大を目指す支払い側が医師との「対面診療」と同等の報酬を求めたのに対し、拡大に反対する医療提供側は「対面診療と同等とすることは医師の技術料を根底から覆すことになる」と対面診療を下回る報酬を主張。中立の立場から公益委員が裁定するという異例の展開となった。
 裁定は「新報酬は対面診療と※特例の中間程度の水準」と結論付けた。最大の争点となった初診料は、対面診療288点、特例214点。その中間点として22年度改定は初診料251点(対面診療の87%)に決まった。
 20年4月、厚労相は新型コロナ感染拡大に伴って患者を振り分けるため「時限的・特例的な対応」としてオンラインによる初診を容認した。それまでオンラインでは初診そのものが認められていなかった。21年6月には22年度改定で初診を恒久化することが決まった。
 22年度改定は、初診料のほか、再診料、外来診療料が新設され、従来の在宅管理に関する報酬(在宅時医学総合管理料など)の内容が整理された。
 また薬剤師による処方薬の服用指導についてもオンライン(オンライン調剤)が制度化された。支払い側委員は「22年度は日本“オンライン診療元年”と言ってもよいのではないか」とコメントした。

⦿オンライン診療 ―情報通信機器を用いた場合― 点数 料金
<新設> ■初診料251点2510円
<新設> ■再診料 73点 730円
<新設> ■外来診察料(㊟オンライン診療料は廃止) 73点 730円

対面診療との使い分けがカギ

 だが、オンライン診療の普及が進んでいるとは言い難い状況が続いている。厚労省の調査(20年6月)によると、オンライン診療が可能な医療機関は約1万6000施設(全体の約15%)、うち初診から可能な施設は約7000施設(6%強)にとどまっている。
 欧米主要国をみると、新型コロナ拡大の影響もあり、患者ベースでみると、英国では70%、米国60%、フランス50%を超える勢いで普及が進んでいる。日本とは調査方法や医療制度が異なっているため単純比較はできないが、日本でオンライン診療の普及が遅れていることは確かなようだ。
 普及が遅れている原因がいくつか挙げられている。日本は中小医療機関が多いため資金力がなく医療情報の確保や通信機器の整備への関心が薄い。またICTなどに詳しいマンパワーや知識が不足している。背景として「政府による医療費抑制で診療報酬(医療単価)が抑えられてきたためだ」という指摘がある。
 オンライン診療が公的医療保険の適用になったのは18年度改定だが、初診が禁止されていたこともあり、普及が進まなかった。ところが、新型コロナ感染拡大で医療崩壊を起こしかねない状況に至ってオンライン診療が再評価された経緯がある。
 わざわざ医療機関に出向く必要がなく、手持ちのスマホやパソコンで初診から医師に診てもらえるのは便利だ。だが、検査や触診ができないため新型コロナや呼吸器疾患、循環器疾患、激痛など急性期症状などの受診はなじまない。対面診療と使い分けできる患者が増えることが普及のカギを握っている。

福祉ジャーナリスト 楢原 多計志