クラスター高止まりに警戒感

高まる介護施設の医療ニーズ

 政府は新型コロナウィルス感染症対策の緩和を打ち出したるだが、高齢者施設では依然として新型コロナウィルスクラスターの発生が続き、職員は対応に苦慮している。厚生労働省は実態調査に乗り出す一方、地方自治体に医療スタッフの派遣などを要請した。どうすれば、医療連携は軌道に乗るか、実態に即した連携体制の見直しが急がれている。

医療機関との連携に課題

 「5月24日時点、94%の高齢者施設が医師や看護師の派遣を要請できる医療機関を確保したと回答した」。翌25日、後藤茂之厚労相は厚労省の新型コロナに関する専門家の助言機関の会合で、そう明言した。
 4月初旬、厚労省は自治体に高齢者施設の医療連携の実態調査や、感染者が発生した施設に24時間内に医師や看護師による「感染制御・業務継続支援チーム」の派遣を緊急要請した。
 要請の大きな理由は、全国的には感染者数が減少しているにもかかわらず、特別養護老人ホームや老健施設などの高齢者施設でクラスターの発生が続いているためだ。
 厚労省の高齢者施設クラスター発生件数報告(週単位)によると、3月7日時点の509件をピークに減少に転じ、同月下旬には84件まで減った。ところが、4月に入ると、117件~156件と再び上昇傾向に。直近の5月16日時点は156件となった。専門家は「予断を許さない状況だ」と指摘した。
 高齢者施設でクラスターが起きる要因として、政府が病床ひっ迫を避けるため高齢者施設に軽度感染者を自施設でケアするよう促しているため感染が拡大しやすいことや、重度化しても医療機関から入院を断られたりして治療が後手に回っていることなどが挙げられている。

医療機能が低いことも問題…

 高齢者施設にはさまざまなタイプがある。当然だが、どれも医療機関と比べ、医療機能が低い。例えば、特養の場合、医師の配置は義務付けられているが、配置基準は「入所者に対し健康管理及び療養上の指導を行うために必要な数」となっており、非常勤の医師は嘱託1人でもよい。
 実際、常勤の医師を複数人置いている特養はほとんどない。特に夜間帯は看護師が中心なり、異変が発生時に嘱託医や協力医療機関に連絡したり、199番通報で救急搬送したりしているのが実情。一般にあまり知られていないが、医療法上では特養は訪問介護と同じ「居宅等」に位置付けられている。
 リハビリによる在宅復帰を目的とする「老健施設」、長期療養の「介護医療院」(介護療養型医療施設から移行中)は、ともに医療法では「医療提供施設」と位置付けられ、入所者数に応じて医師の配置(数)が義務付けられているものの、一般的な病院や診療所と比べ、医師や看護師は少なくてすむ。
 有料老人ホームやグループホームは医師を配置する義務はなく、医療法上では「在宅」の扱いだ。
 高齢者施設では、入所者の要介護状態が年々重度化し、医療ニーズが高まっている。。しかし、介護職員ができる医療行為は体温や血圧などの測定、点眼、内服薬の介助などになどに限られており、痰(たん)の吸引や経管栄養(胃ろう)は看護師や講習を受講して修了した介護士にしかできない。

介護施設の医療対応比較(2021年10月末現在)

 頼りは外部の医療機関との連携だが、コロナ禍、施設が感染者や患者の診察や治療を要望しても断られる事態が頻発した。東京都内のグループホームの役員は「家族から“かかりつけ医”だと説明された医師(診療所)にも診察を断られ、保健所になんとかしてほしいと訴えたことがあった」と話した。
 実は、介護と医療の連携は介護保険制度がスタートした2000年度からの懸案事項の1つ。厚労省は介護報酬や診療報酬の加算や補助金などで連携の強化を支援してきたと説明している。だが、コロナ対応で実態が厚労省の説明通りではないことがはっきりした。
 後藤厚労相は高齢者施設の94%が協力する医療機関を確保したと強調した。しかし、自治体の報告(事業者の聴き取りが中心)を鵜のみにして良いのか、介護職員や看護職員、入所者・家族、そして協力医療機関の医師の「生の声」が聞きたい。実態調査から見直すべきという声は強い。

福祉ジャーナリスト 楢原 多計志