「かかりつけ医」制度化、検討

「コロナ」受診不可のケース続出…

 新型コロナウイルス感染症対策で「かかりつけ医」の実態が浮き彫りになった。患者や家族が「かかりつけ医」と思っていた開業医などから診察を断られるケースが続出し、患者の行き先がなくなる事態が全国で発生した。政府は「かかりつけ医」を認定し、患者を事前登録する制度を検討する方針だが、日本医師会(日医)は「医療費抑制が狙いだ」と制度化に難色を示しており、医療制度改正の大きな論点になりそうだ。

「フリーアクセス」阻害に反対

 「かかりつけ医」に法的な定義がなく、過去にも解釈をめぐって議論が交わされてきた。開業医の会員が多い日医の解釈はこうだ。「(患者の)の近くにいて、いつでも何でも相談でき、病状によって病院を紹介してもらえるお医者さん」。地域で診療所や規模の小さい病院の医師を想定しているようだ。
 ところが、コロナ禍で予期せぬ事態が発生した。発熱や呼吸障害などの感染症状がみられる患者の診療を拒否する診療所や病院が続出した。「新型感染症の専門知識なく対応できない」というのが大きな理由だった。
 東京都江東区のある認知症向けのグループホームの施設長は「最初に発熱した患者の家族から『かかりつけ医』と言われた診療所を含めて4カ所の診療所で診察を断られた。119番して救急搬送を要請。やっと隣の区にある病院に運んだ」と話した。
 施設長は「計7人の感染者が出て保健所からクラスターと認定された。介護保険の利用申請に必要な主治医の意見書を作成した7人の医師のうち診てくれた医師は1人だけ」と医療・介護連携や主治医の在り方に疑問を呈した。
 厚生労働省は住み慣れた地域で医療・介護サービスが受けられる「地域包括ケアシステム」の構築を施策に掲げているが、コロナ禍は医療・介護連携の不備を浮き彫りにした。

医療費抑制の狙いも

 コロナ対応の反省を踏まえ、政府は6月7日、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針2022)を閣議決定した。この中で「かかりつけ医機能」が発揮するよう制度の整備を検討することを明記した。「かかりつけ医」を法的に制度化し、機能を発揮させようという考えだ。
 「かかりつけ医」の制度化は、財政制度等審議会(財政審、財務相の諮問機関)がまとめた建議がベースになっている。
 ポイントは①「かかりつけ医」機能の要件を法的に明確化した上で、機能を備えた医療機関を「かかりつけ医」と認定する②「かかりつけ医」に対し、利用者希望者による事前登録制・医療情報登録度を促す仕組みを段階的に導入することを検討すること。
 財政審は同様の制度を導入している英国とフランスの「家庭医制度」(呼称)を意識して建議をまとめた経緯がある。英国では、原則、患者は最寄りの「家庭医」(大半が診療所の医師)の診察を受けなければ、大病院や専門の医療機関は受診できない。フランスは複数の「家庭医」を登録できる点が特徴の1つ。
 日本の公的保険制度にも大病院での受診を制限する仕組みがある。医師の紹介状がなく、一定規模以上の医療機関を受診すると、保険診療とは別建ての自己負担料を支払わなくてはならない。
 「かかりつけ医」の制度化には、大病院に患者が殺到して専門的な治療が必要な患者や臨床実験が阻害されるという医療・医学上の課題を解決する狙いがある。一方で、大病院は診療所と比べ患者1人当たりの医療費が多くかかり、患者の集中によって医療費を押し上げているのも事実。英国、フランスの制度にも医療費抑制策の狙いがある。

国民への情報提供にも問題

 日医や病院団体は「かかりつけ医」そのものには反対していないものの、医療法改正などによって法制化されることには「国民が自由に医療機関を選べる医療フリーアクセスが制限される見直しには断固反対する」(常任理事)という声が強い。
 6月15日、岸田文雄首相は記者会見で新たなコロナ対策として「内閣府感染症危機管理庁」の創設や感染者向け病床確保への国の関与などを挙げ、法制化するという。感染症予防や治療には「かかりつけ医」の協力が不可欠で、審議会だけではなく、国会内、与党内での議論が避けられない。
 同月8日、日本医師会総合政策機構(日医総研)が公表した患者の意識調査では、かかりつけ医が「いる」と答えた人は全体の55.7%で2年前からほとんど増えていない。情報提供の方法にも問題がありそうだ。

福祉ジャーナリスト 楢原 多計志