調査委「背景に企業風土」と指摘
トヨタグループの日野自動車(本社・東京、小木曽聡社長)はエンジン不正認証問題で取締役ら現役役員と元役員らの処分を発表した。不正は少なくても約20年前から行われ、小木曽社長は「不正の背景に企業風土があった」と自戒し、人事刷新や社員の意識改革などによってガバナンスを確立する考えを示した。だが、国内出荷停止とイメージダウンでかつてない経営危機に直面している。
犯人捜しなどパワハラ体質も
日野自動車はトラック・バスの国内有力メーカーで、売上げ約1兆5000億円(22年3月期)、社員約1万3000人。全株の50.1%をトヨタ自動車が所有している。
不正が発覚したのは今年3月。トラックやバスなどに搭載するエンジン5機種の型式認証を申請する際、国の定めた試験に従わず、排ガス規制値が超過したり、燃費性能で複数の機種が目標に達しなかったりしていた。さらに国交省から不正の有無について報告を求められた際、「基準を満たしている」と偽って報告して型式指定を取得していた。
一連の不正によって9月までに国交省から型式認証を取り消されたほか、違反の是正や再発防止策の策定を急ぐよう是正命令を受けた。
また第三者機関の特別調査委員会から不正が少なくとも2003年から行われていたにもかかわらず、経営者が見過ごしていたことや、現場で作業に遅れが出た場合、上司が部下に犯人探しを行わせるなどの「パワハラ体質」などの企業風土が指摘されていた。
旧経営陣に報酬の一部返還を要請
10月7日、同社は役員(元役員含む)の処分を発表した。現役役員では生産や技術開発を担当していた取締役ら4人が退任(辞任)。品質本長は降格。トヨタ自動車出身で不正が行われた期間は在任していなかった小木曽社長については月額報酬50%の6カ月分返納、専務は月額報酬30%を3カ月分、社外取締役と非常勤取締役の計4人は月額報酬20%を3カ月分、それぞれ返納することにした。
注目点は「長期間、不正を見過ごしてきた経営者の責任は重い」として過去の社長ら元役員11人に受け取った報酬の一部について自主返納を要請したこと。
小木曽社長は記者会見で「特別調査委員会が指摘しているように不正の背景には当社の企業経営と企業風土に問題があった」として当時の元役員に報酬の一部返納を促すことにしたと説明した。不正に直接関わった社員の処分については「今後、慎重に検討したい」と述べた。
また処分発表後、小木曽社長は「二度と不正を起こさないための『3つの改革』」として経営改革、人財を尊重する組織風土への変革、新しいクルマづくりのための構造改革を発表し、改革への意気込みをアピールした。
トヨタブランドにも影響か…
日野自動車を取り巻く環境は厳しさを増している。ウクライナ情勢や円安ドル高の影響に加え、国内販売の4~5割を占める主力車種のエンジン型式指定が取り消されたため、8月時点では「売れ筋のトラックが売ることができない」(神奈川県内のディーラー役員)という状況が続いた。9月に入り、一部の販売が再開されたものの、「イメージダウンは否めない」(同)と話す。
不正問題は米国でも追及の動きがある。米国司法省が調査に乗り出す構えを見せているほか、米国内の販売会社が損害賠償を起こすという観測も流れている。排ガスの敏感なヨーロッパ先進国の対応にも関心が集まっている。
同社の21年度の総販売台数は約15万6000台。国内販売は約4割で海外販売が約6割を占める。アジアが主力で北米と欧州はそれぞれ1%余に過ぎないが、欧米の対応がアジア諸国への影響する恐れもある。
ここにきてトヨタ自動車の動向に関心が集まっている。トヨタは同社の筆頭株主という立場だけではなく、トヨタ車の生産の一部を日野自動車に委託している。21年度のトヨタ車生産は約14万1000台。今回の不正が「トヨタブランド」に影響しないかどうか。過去には三菱自動車や日産自動車も不祥事が起きており、日本車への信頼が失墜しないかどうか、再発防止の実効性が注目されている。
ジャーナリスト 楢原 多計志