SMBC日興証券の相場操縦事件

「半年間無給」で近藤社長が留任

 

 2022年は日野自動車のエンジン性能偽装や三菱電機の不正製造など企業の信頼を揺るがす不正が次々と露呈し、企業はトップや新旧役員の報酬カット(返上含む)などの社内処分を発表した。違法な相場操縦が発覚したSMBC日興証券(近藤雄一郎社長)は、ガバナンスの欠如が問われるとともにトップの責任の在り方をめぐり注目された。
 今年3月、東京特捜部は専務でエクイティ本部長のヒル・トレボー・アロン容疑者や副本部長の杉野輝也容疑者ら4人を金融商品取引法違反(相場操縦)容疑で逮捕し、事件が表面化。(㊟:肩書きは当時のもの。)

相場操縦をめぐる疑惑で逮捕

 10月、東京地検は、法人としてSMBC日興証券を、またアロン被告や杉野輝也被告、副社長の佐藤俊弘被告ら計6人を同法違反罪で起訴した。
 起訴状によると、アロン被告らは2019~21年の間、大株主からまとまった株を自社資金で買い取り、個人投資家らに転売した。同社は約11億円の利益を得ていたとされた。
 本来、株価は市場原理に基づいて決定されるものであり、金融商品取引法は証券会社が特定の銘柄の株価を維持するため時間外に自社資金で大量に買い付けたりする行為を相場操縦として禁じている。
 同社と杉野被告は起訴事実を全面的に認めたが、アロン被告や佐藤被告ら5人は「通常業務の範囲だった」として否認。同社・杉野被告とアロン被告ら5人の裁判は分離しておこなわれることになった。
 この間、金融庁は相場操縦行為と認定し、同社に違法行為を防ぐ売買審査体制や業務体制に不備があったとして3カ月の業務停止と、内部管理体制の強化や経営責任の明確化を求める業務改善命令を出した。
 同時に、三井住友フィナンシャルグループ(太田純社長)にも子会社の業務改善に必要な措置を取るよう改善を命令した。非公開とすべき株式売買に関する情報を共有していたことも改善命令の理由になったとみられる。
 10月28日の初公判では、近藤社長と杉野被告は起訴事実について「間違いありません」と起訴事実を全面的に認めた。12月26日に論告求刑が行われ、来年2月13日に判決が言い渡される予定(アロン被告ら5人の公判は未定)。

利益優先の体質に批判も…

 同社の外部調査委員会の調査などで明らかになったのは、被告らが日常的に取引外時間外に大株主から大量の株を自社資金で買い取って投資家に転売し、同社が利益を得ていたこと。
 外部調査委員会は「大量買い付けには株価が大幅に下落するのを回避する意図があった」と指摘する一方、同社にはライバルの証券会社のような「自己売買を制限する社内システムがなく、規範意識が薄かった」と分析した。
 同社OBには「株価下落を防ぐ目的が理由だというが、違法と知りつつ、上手く売り抜けて利益を上げようとしたのではないか」と利益優先の企業体質を批判する声もある。
 近藤社長は記者会見で外部調査委員会の報告を受けて「市場の公平性や公正性に疑問を生じさせ、行動規範に反する行為だった」と言明している。
 11月4日、SMBC日興証券と三井住友フィナンシャルグループは再発防止策を柱とする改善計画書を金融庁に提出するとともに、社内処分を発表した。
 処分の対象はSMBC日興証券、三井住友フィナンシャルグループなど関係3社のトップを含めた計22人。月額報酬の100~10%を6~3カ月減額(返上)とした。
 近藤社長を「半年間無給」とした。事件発覚直後、近藤社長は「引責辞任する」と辞意を表明していた。続投は近藤社長本人の希望ではなく、三井住友フィナンシャルグループの要請があったとみられている。
 SMBC日興証券OBは「無給とはいえ、いったん辞任を表明した人が親会社の意向で続投することになり、社員の士気が上がるのか」。ライバル証券会社役員は「SMBC日興証券が三井住友フィナンシャルグループ傘下になってから過去3回も行政処分を受けており、近藤社長続投で企業体質が変わるのか」と話した。

福祉ジャーナリスト 楢原 多計志

≪㊟≫ 社員6人と(法人としての)SMBC日興証券が金融商品取引法違反罪で起訴され、法人と社員1人は初公判で起訴事実を認めましたが、残る5人は無実を主張しているため分離裁判(初公判・未定)になります。事実関係は12月16日時点です。