問われる電力会社の「公益性」

家庭料金値上げ申請で高まる関心

 

 大手電力会社が燃料価格の高騰などを理由に家庭向け規制料金の値上げを国に申請した。しかし、カルテルや新電力会社の顧客情報を不正閲覧などの不祥事が発覚し、企業体質やガバナンス(企業統治)の欠如が問題になっている。消費者だけではなく、政府内からも「公益企業として自覚が足りない」との厳しい意見が上がっている。

焦点は「値上げ幅」に

 「ウクライナ侵攻などで世界的に石油やガスの価格が上昇しているが、効率的にコストが削減されているかどうか、(カルテルや顧客情報の不正閲覧は)間接的に消費者に影響が出る。きっちり調べ、公益性に努めてほしい」。
 2月13日、値上げ申請している東北電力や中国電力など4社に対する消費者庁のヒアリングが行われ、河野太郎消費者担当相は4社のトップに公益企業としての自覚を強く求めた。 
 電気事業法では、値上げの是非や値上げ幅を決めるのは経済産業省であり、消費者庁との協議が必要とされている。河野消費者担当相の発言が承認に直接影響することはないが、「有権者の疑問や不満を代弁している」(自民党参議院議員)との声が出ている。
 同月18日時点、大手電力会社10社のうち東北電力、東京電力、四国電力、沖縄電力など7社が石油や液化天然ガス(LNG)などの燃料価格の上昇や円安などで経営が悪化しているとして経産省に「家庭向け規制料金」の42.1~27.9%の値上げを申請。現在、電力・ガス監視等委員会(電取委)で審議されている。
 ちなみに、これまでの値上がりは国の承認が不要な「燃料調整費」が上昇していることが大きな要因。
未定としている中部電力、関西電力、九州電力の3社も、原子力発電に余力がなくなる段階で値上げを申請する見通し。
 これまで経産省は燃料価格が上昇すれば、ほぼ料金の引き上げを認めてきた。今回も、電力各社の経営状況(10社中、9社が赤字決算の見通し)から基本的に値上げを認める方針だが、多くの消費者物価や原材料価格が値上がりしている中で、影響の大きい家庭電気料金について「値上げ幅」をどうするか─が大きな焦点になっている。 

独禁法違反で過去最高の課徴金

 一方、大手電力会社の不祥事が相次いで発覚している。昨年12月、企業向けの電力供給でカルテルを結んでいた中国電力、中国電力、九州電力は公正取引委員会(公取委)から独禁法違反(不当取引制限)として3社合計で過去最高となる1000億円を超える課徴金の納付を命じられた。
 2018年11月ごろから20年10月ごろまでの間、3社(当初は関西電力を含む4社)は工場やオフィスビル向けの高圧電力の販売で競合しないよう協定を結んでいた。関西電力の主導だったとされているが、同社は公取委の立ち入り調査が入る前に自己申告して命令を免れた経緯がある。
 中国電力は課徴金相当額707億円余を23年3月期に特別損失として計上すると発表した。「課徴金を値上げに反映させることはしない」と説明したものの、赤字が増え、株価が大幅に下落した。中部電力と九州電力も同様の会計処理をするという。

長期間の不正閲覧に批判

 今年1月には、東北電力、中部電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力の6社が子会社の送配電会社を通じて新電力会社の顧客情報を不正に盗み見していたことが発覚し、経産省の電力・ガス取引監視等委員会(電取委)から電気事業法違反の疑いがあるとして報告を求められた。公取委は行政処分を検討する。
 2016年の電力完全自由化で新電力会社が全国各地に誕生したが、発電装置や送電システムを持っていないため、大手電力会社の子会社である送配電会社から電力を借りて顧客に販売している。契約の関係で送配電会社は新電力会社の顧客名や住所、連絡先、電力使用量などの情報を持っている。
 電気事業法では、送配電会社と親会社の大手電力会社の小売部門が新電力会社の顧客情報を共有することを禁止している。大手電力会社とライバルとなるべき新電力会社の公正な競争環境を促すためだ。
関西電力は「送配電会社の情報システムに不備があり、新電力会社の顧客情報が垂れ流し状態になっていた」と釈明した。同社の内部調査によると、昨年4月から12月漏れ中旬までの不正閲覧数は4万件余に達した。
 新電力会社の幹部社員は「新電力に切り替えた客を奪い返す『取り戻し営業』のため長期間不正閲覧していた可能性が高く、半組織的かつ悪質だ」と批判している。

ジャーナリスト 楢原 多計志