第23期経営倫理士講座 第1回①講義レポート

講師: 潜道 文子  
講師所属等:日本経営倫理学会副会長/拓殖大学副学長・教授・博士(商学)  
講義テーマ:「今、なぜ経営倫理なのか」

社会の中でのビジネスの存在意義とは…

 第23期 経営倫理士資格取得講座・第1回講義は、2019年5月20日(月)、潜道文子講師(日本経営倫理学会副会長、拓殖大学副学長・教授)による「今、なぜ経営倫理なのか」。講義に先立って開講式が行われ、22年間にわたって企業・組織に求められる経営倫理の主要なテーマについて、多角的な視点から考察し理論と実務を習得する講座から660人を超える経営倫理士を送り出した講座の意義について千賀瑛一専務理事があいさつ、資格取得へ向けて受講者にエールが送られた。

経営倫理の基本概念の流れと意味を講義した
潜道文子講師

■「経営倫理とは?」などを重点に

 「倫理」とは「人間がどう生きるべきか」を問う概念であり、経営倫理とは「組織の場でいかに行動すべきか」を考えるものであり、その役割は「正しいもの」を判断するツールを提供することとの説明があった。
 また、経営倫理に関連する概念としてCSR(企業の社会的責任)があるが、経営倫理とCSRとの関係について2つの考え方が紹介された。

①経営倫理が基礎となり、CSRは経営倫理が前提
 水谷雅一『経営倫理学のすすめ』
 「一般に経営倫理は、社会責任を包摂したコンセプトとして把握することができよう」

②CSRの一部としての経営倫理
 アーチー・B・キャロル
 CSRピラミッドの構成要素(フィランソロピー的責任、倫理的責任、法的責任、経済的責任)

■企業の社会的責任否定論と肯定論なども

 今、経営倫理が求められる背景として、日本では1970年代までは経済優先で企業不祥事なども社会問題化しづらかったが、1980年代に入り企業も社会の中の一存在であり、企業は社会に活かされている存在という考え方が広まった。企業優先から「企業の社会的存在主義」の価値観にシフトし、その結果、企業は経営倫理の必要性を認識するに至ったとの説明があった。

 ミルトン・フリードマンは「企業の社会的責任は利益拡大」であるとし、社会的問題の解決は政府が担当すべきものとした。一方、エドワード・フリーマンは企業活動がそれを取り巻くステークホルダーとの関係の中で行われており、企業や人間の行動には他者に対する責任が伴うというステークホルダー理論を初めて展開したとの解説があった。

 また、ローラ・L・ナッシュは、経営者の間で「啓発的自己利益」すなわち、「利益を得るために良いことをする倫理」が広まったが、これは企業を自己保存にとどまらせて、価値創造には向かわないと主張し、「契約的企業倫理」という倫理が戦略を決定する考え方を提唱した。「契約的企業倫理」は他者の繁栄が第一目的であり、利益の合法性は、第三者による企業の価値創造と利益とのバランスの妥当性によるとした。この事例としてJ&J社の「我が信条(Our Credo)」を取り上げ、株主ではなく顧客が第一優先であり、ビジネスをステークホルダーとの関係に沿って作り上げる手法を紹介した。

■水谷雅一先生 「経営価値四原理システム」の重要性を強調

 企業活動を効率性・競争性・人間性・社会性の四原理で捉える「経営価値四原理システム」を解説。「人間らしさ」を追求し、「他人への配慮による共感の情念」が倫理の原点であるとした。

 人間性や社会性重視の方針からより多くの経済的利益を創造するためには、イノベーションや個人の能力を充分発揮することが必要。イノベーションという観点では、近年急速に広まったCSV(Creating Shared Value)において、経済価値と社会価値の同時実現のためには、知識価値すなわちイノベーションを介したモデルが不可欠であるとの説明があった。

 最後に、社会の中でのビジネスの存在意義として、Business and SocietyからBusiness for Societyへの変換が提起され講義を締めくくった。経営倫理に関する基本事項をまとめた、内容の濃い講義であった。

(講義リポート:総合企画委員 川瀬 暁)