第23期経営倫理士講座 第3回④講義レポート

講師:辻 さちえ  
講師所属等:株式会社エスプラス代表取締役・公認会計士/公認不正検査士協会理事・公認不正検査士
講義テーマ:「経営倫理と監査」

「見ようとしないと見えない」ものを「見ようとする」姿勢を

 第3回講義④は、6月5日、辻さちえ講師( 株式会社エスプラス代表取締役・公認会計士 )による「経営倫理と監査」。

■監査の必要性 第3のディフェンスライン

企業倫理推進のポイントにも触れる辻さちえ講師

 監査の定義を示した後に、監査の必要性として「第三者の視点」と「誰かの目線」について具体例で説明があった。また、会計監査人監査、監査役監査、内部監査の違いを目的、根拠法令、監査対象・視点、報告先に分けて示し、特に内部監査については定義の他に「第3のディフェンスライン」の考え方を用いて説明が行われた。

 経営倫理を監査する難しさとして、適切な評価基準(測定基準)が難しいことがある。正解は無いが試行錯誤していくことで、「見ようとしないと見えない」ものを「見ようとする」姿勢の大切さが強調された。

■世界で最も倫理的な企業

 急激な環境・技術の変化、グローバル化・労働の流動化に対して、法整備が追い付かず、狭い範囲の常識は通じなくなってきている。経営にとっての倫理の重要性として、現実に即してない法律解釈ではなく、「倫理」といった自分の中の善悪の基準を持っていたほうが「効率的」と考えられるようになった。

 企業例として、米企業倫理推進シンクタンク:エシスファイア・インスティテュート発表による2019年版「世界で最も倫理的な企業」で、日本企業では花王とソニーが選出され、花王の「正道を歩む」という精神を大切にしている企業風土が紹介された。

■「答えがない」組織の倫理観を問う監査

 監査テーマとしては、倫理単独ではなく「コンプライアンス・倫理」として対応することが多いが、「法令やルールを遵守しているか(いわゆる準拠性監査)、法令やルールを遵守するためのプロセスができているか(プロセス監査)」を目的とする。また、倫理が問題となる場面について具体例を3例あげ、その場合の目指す監査が示された。
 組織の倫理観を問う監査は「答えがない」ことのため、あまり監査の対象となっていなかったが、「倫理について適切に考える機会を作っていたのか、倫理観の醸成のための具体的な取り組みがあるのか」といった視点が課題になりえるとした。

 また、企業倫理を推進する体制構築のポイントとして5項目(方針の作成、仕組みつくり、教育・啓発活動、相談窓口、モニタリング機能の充実)が示された。さらに、もう一つの大切な視点として、「笑いは、全人類の謎を解く合鍵である(カーライルの名言)」を取り上げ、監査の現場での感覚・雰囲気を大切にすることがまとめとして説明された。

               (講義リポート:総合企画委員 佐藤 直人)