ACBEE戦略セミナー・第8弾
事例の傾向分析、予防策をキッチリ議論
日本経営倫理士協会(ACBEE JAPAN)が主催する「ACBEE戦略セミナー」の第8弾が4月26日、筑波大学 東京キャンパス文京校舎(茗荷谷)で開催された。講師は、立教大学兼任講師の渡部正治氏。第Ⅰ部の講義のテーマは「不祥事例の分析・学ぶべき教訓と未然防止対策」。企業不祥事が示す意味・内容や企業に与える影響を解説。それを受けての第Ⅱ部でのグループワークでは、このセミナーのためにまとめられたACBEE・MOOK『企業不祥事動向(ワースト10)2010~16年』を使い、「経営倫理の浸透と定着」を着地点として、さまざまな角度から意見交換を行った。
リスクマネジメントの視点が重要

渡部 正治氏
立教大学大学院 経済学研究科・ビジネスデザイン研究科・21世紀社会デザイン研究科 兼任講師、経営倫理実践研究センター シニアフェロー
第Ⅰ部講義の「不祥事例の分析・学ぶべき教訓と未然防止対策」では、企業不祥事が示す意味・内容や企業に与える影響を解説。そして、およそ20年さかのぼっての、わが国における企業不祥事の傾向やその特徴を概括した。不祥事例の問題の所在や、その発生要因と発生原因の関係性、不祥事の予防・防衛策、さらには防衛策に対する経営トップの期待される役割といった、企業不祥事の全体像にアプローチする講義が行われた。
具体的には、社会が企業不祥事を認知する手段には、どのような方法や契機が存在するのかを確認し、どのような場合に企業は公表措置を取る必要があるのか、そのタイミングや内容の程度、企業不祥事の会社に与える一般的な有形無形の影響について再確認、最善策を示したマニュアル策定の必要性やそのメインテナンスの重要性が指摘された。
特に企業不祥事発生後の対応の甘さからステークホルダーに対する信用低下を招いた事例も見られることから、これらを良い教訓として、リスクマネジメントの視点で日頃から企業不祥事に関心を持ち、自社の参考とすることは重要であることが改めて説明された。

次に日本における企業不祥事の特徴と教訓について考察が行われた。過去50年あまりにわたる企業倫理問題に関わる社会的事件や動向と個別の企業不祥事事件を示した年表を参照しながら、1990年代、2000年代と2010年代の企業不祥事の特徴が解説された。
1990年代は主として経営トップの直接関与や経営中枢の腐敗による反社会的行為など、法令違反行為によるものが多く見受けられた。そして、2000年代に入ってからは、現場の違法行為や不正行為による不祥事発生が増加するなか、社会の企業不祥事に対する厳しい目が向けられる傾向にあったことなどを理由として、コンプライアンス経営を重要視した経営姿勢が促進していった。また、CSRを推進する先進的な企業も2000年代後半に入り増加した。
2010年代に入り企業不祥事は、事件として大型化・複雑化していることが指摘された。経営の直接関与や現場の違法行為よるもの、また、これらを複合するような経営トップや管理職の関与を伴った不正行為などが目にとまるようになった。社会に与える影響や企業が被る損失額、課徴金等の額の増加傾向、そして、特に個人情報の漏えい事件は、被害者数も大幅に拡大化している点などが指摘された。

不祥事の原因と発生を誘引する要因には密接な関係があり、これらの発生源は常に人が介在すること、また、企業不祥事は起こり得ると考え、自社における資産形成の一環として未然防止の体制構築を図ることの重要性を確認した。
第Ⅰ部講義の最後には、経済広報センターが今年2月に公表した『生活者の“企業観”に関する調査報告書』を経営倫理の浸透を図る必要性への問いかけとして参照した。「企業の果たす役割や責任の重要度」について、項目ごとに調査したところ、回答者のうち96%が「社会倫理に則した企業倫理を確立・順守すること」を選択している一方、「企業がどの程度対応していると思うか」とした問いに対しては、「対応している」「ある程度対応している」と回答した者が37%であり、生活者の見方は厳しいことが明らかにされていた。
また、企業不祥事の防衛とトップの役割について説明があり、不祥事の防衛には、その「態勢」構築に対するトップの率先垂範の取り組みが重要であること、さらに、会社の「憲法」とも位置付けられる「経営理念」について愚直なまでに語り、社全体に浸透させる責務があることが強調された。
不祥事を風化させない研修を...
第Ⅱ部のグループワークでは、今回特別資料として提供されたACBEE・MOOK『企業不祥事動向(ワースト10)2010~16年』を各受講生が参照、「経営倫理の浸透と定着」を着地点として、さまざまな角度から意見交換を行った。
その中で「企業不祥事の事例を踏まえると、経営トップの持つ倫理観がカギを握る可能性があり、バランスを欠いた意識が不祥事を誘発する恐れがある」、「経営理念の浸透は、経営層もさることながら、中間層も“物を聞く立場の者”として取り組むべきで、自らも現場への浸透・確認を図ることが大切」、「過去の不祥事を風化させない研修プログラムの確立は特に重要」などの意見があった。また、経営倫理の浸透と定着を図るための有効な手段として人事評価制度を利活用する話もあった。
最後に、「経営理念や行動規範(倫理綱領)などを持続して機能させるための一つの在り方として、日々触れる事業活動にかかる情報を通じ、これらに関係する事柄をコンプライアンス担当者自身が抽出し、適時適切に現場へアドバイスを行うことができるような部署に進化する。情報の有効活用を行い、潜在的なコンプライアンス事案を探すことはすぐにでも着手できることであろう」との提案、指摘もあり、実務的な議論が展開され有益な場となった。