第12回シンポジウム・報告書(速報ダイジェスト版)

『ダイバーシティ経営と女性が輝く職場』
<女性の“仕事力”を引き出す「つながり」を…>

2021年7月13日(火) 13:30~16:50 オンライン配信(Zoomミーティング)

 第12回ACBEEシンポジウムが2021年7月13日、オンライン配信(Zoomミーティング)で開催された。テーマは『ダイバーシティ経営と女性が輝く職場 ―女性の“仕事力”を引き出す「つながり」を。
 働く場、生活の場で、ダイバーシティへの取り組みは、経営倫理の重要テーマ。ダイバーシティ経営の中でも、女性活躍推進は、最も注目される課題だ。産業界でも雇用、人材開発、両立支援などテーマは幅広く、踏み込んだ取り組みが求められている。国も女性活躍推進法制定に続き改正法も施行、制度の幅広い浸透を図っている。今回のシンポジウムは、この重要な時機に産業界を中心とした現場の視点や悩み、改正法の概要・実施状況などにアプローチした。

●開会      13:30
●第1部  女性の“仕事力”を引き出す「つながり」を
 <パネリスト>      津村 佳宏 氏
              近藤 恵美 氏
              光永 圭子 氏
<コーディネーター>  北村 和敏 氏
●第2部  クロストーク  まとめ、振り返りと質疑応答

開会

 日本経営倫理士協会の千賀瑛一専務理事が開会挨拶。「今回のシンポジウムは、協会としては第12回目のシンポジウム。原則として年1回の開催方式で、関西シンポジウムも別建てで開催している。テーマ選定に際しては、社会情勢、経済動向などを見定めながらタイムリーな企画を打ち出している。CSR、コンプライアンス、ダイバーシティなど幅広い経営倫理の重要課題の中からトレンドなテーマを選んでいる。シンポジウム討論の中でも、ホットな話題や最新のデータが提供されるため、毎回好評だ。シンポジウムはACBEEの情報発信の柱の一つで、利用価値をさらに高めてきた。」と話した。

第1部 パネリスト・スピーチ

女性の“仕事力”を引き出す「つながり」を…◇ 

津村 佳宏氏(株式会社アデランス代表取締役社長 グループCEO)
『ECSR三方よし経営によるダイバーシティの重要性』

<経営危機から原点回帰で再建>
 アデランスは1968年に創業し50年余。ウイッグ(かつら)の会社のイメージがあると思うが、毛髪のソリューション、問題解決にかかわるすべての事業を行ってきた。美容とヘルスケア事業、いわゆるウエルネスカンパニーを目指していこうと、社員全員で活動している。世界20の国と地域で社員数は、今年2月末現在6119人だ。
 創業以来、順調に経営が拡大。海外にも進出し、増収増益、無借金経営、内部留保も作り、2003年は業績も良く、売り上げ771億円、利益も100億円以上出していた。 
 ところが、外資系投資ファンドにより、株式の30%を保有されたうえ、競合他社の進出、発毛剤など医療品の開発、リーマンショックも重なり、1000円以上株価が下がった。
 09年の「株主総会の委任状争奪戦」の結果、プロ経営者が大量に入り、外資系ファンド体制になったことが経営に強いダメージを与え、10年、11年は連続して赤字を出し、まさに経営危機だった。
 15年12月、ついにファンドがすべての株を売却して撤退、16年5月にプロパー体制に戻した。中長期に向けて安定させるためにMBO(目標管理)によりいったん非公開化。その後再上場プロジェクトをスタートさせた。
 私は、16年5月に代表取締役専務執行委員に就任。経営再建に向け、もう一度、原点に戻ってアデランスの存在価値・意義を考えた。それが「子供の脱毛、がんによる脱毛など、世界中で、毛髪で悩んでいる多くの人を、グループの力で笑顔にする」だった。
 そのうえで、①グローバルウエルネスカンパニーを目指す②R&D(研究開発)を追求し、オンリーワンイノベーション製品を生み出す③真のECSR三方良し経営を確立する―を3本柱に掲げ、目指すべきは「最高の商品」「最高の技術と知識」「心からのおもてなし」ということを、グループ全員に共有を徹底していった。

<多様性生かしみんなの力で>
 グッドカンパニーの実現のため、経営活動で大切にしている順番は①社員と家族②取引先(パートナー)とその家族③お客様④地域社会(税金、雇用、CSR)⑤株主―だ。
 社員は、やりがいを持ち、やる気を出せばいい商品を作るし、家族も応援する。取引先もアデランスのために頑張ろうという気持ちになれば、いいものが生まれ、お客様に還元され喜ばれる。CSRなどで社会から尊敬されれば、株価も上がり、配当を出せる。このサイクルをしっかり回す必要がある。
 アデランスが目指す「ECSR三方良し経営」は、ES(社員のやりがい)、CS(お客様満足)、CSR(企業の社会的責任)だ。
 一部の人間では動かないが、みんなの力を合わせて、多様性を経営に生かせば大きく動く。社員の長所を伸ばし、活躍の場をつくることが必要。アデランスに国境は無く、差別もない。グループ会議は毎年開いている。

<やってみなはれの精神で>
ダイバーシティ活動では、サーバントリーダーシップが重要になる。リーダーはまず相手に奉仕し、その後相手を導く、という考えに基づき、「経営が社員を 支え、社員がお客様を支える」という方向性で取り組んでいる。
 アイデアがあるなら「やってみなはれ」と、社員をバッターボックスに立たせる。ホームランかもしれないし、三振かもしれない。3割や5割打つかもしれない。その人の思いや特徴を生かせば、大きく成長、活躍できる。年齢、性別、国籍などにとらわれず、頑張る社員を応援し、起用していくことをやっている。
 創立50周年では第1回世界ウイッグ競技大会を開き、10カ国30人が参加。モチベーションが上がり、グループへの帰属意識が高まったので、4年に1度実施することになった。
 能力があれば、新入社員でも登用する。英語と韓国語が流ちょうな男性新入社員は、通訳として頼りにされ大活躍、2、3年で役職者になった。別の男性社員は、1年目に英語で書いた研究論文が最優秀賞を受賞し、今は人工毛研究のリーダーだ。
 国籍、年齢、人種、性別、LGBT、障害の有無も関係ない。アデランスUK(英国)は98%女性の会社で、トップも女性。コロナ禍でも損益分岐点を超える業績を上げた。
 CSでは、社員50人によるプロジェクトチームで意見を出し合った結果、クレド(行動指針)カードを作製し、成果を挙げている。
 CSRでは、事業を通じて社会貢献することは、お客様や社会との信頼関係を構築するだけではなく、経営品質や帰属意識を高めることができる。
 病気ややけどによる脱毛に悩む子供たちに、心の傷にしてはいけないと、オーダーメイドウイッグをプレゼントする活動では、年間330人の子供をサポートしている。植林活動では1000本以上の苗を植え、津波が来ても助かる状態をつくろうと取り組んでいる。
 働き方改革では、コロナ禍の前からテレワークを取り入れている。九州の大学で学びながら、経営企画部門で活躍している男性社員もいる。個人事業主制度を採用し、産後の復職率も上がり、今や90%近く。育児休暇の充実や健康経営にも力を入れ、女性管理職比率は約20%にまで上がっている。
 MBO以降、業績は順調に回復し、2020年2月期、818億円の過去最高売り上げを更新した。アデランスグループは、51期~100期までの目標として、毛髪・美容・健康・医療のグローバルウエルネスカンパニーを掲げ、全社員一丸になって励んでいる。


近藤 恵美(サントリーホールディングス株式会社  リスクマネジメント本部  コンプライアンス室  室長)
『サントリーホールディングス ダイバーシティの取り組み』

<女性が活躍できる土壌へ>
 雇用者総数に占める女性の割合は44.5%(2017年)まで高まり、女性に求められてきた「結婚退職→子育て→パート」という仕事観が変わろうとしている。大学進学率では、男性56.6%に対し、女性50.7%(19年)と格差がほとんどなくなっている。
 社会における女性の活躍は、必然的な社会の期待。結婚や出産で職場を去ることは、社会の損失につながるということができる。
 サントリーは、元々はお酒の会社で、男性のイメージ。得意先営業は気力と体力勝負だった。しかし、男性主体では消費者や社会のニーズに応えられない。流通の変化もあり、女性が活躍できる土壌へ変わってきた。データやシステムテクノロジーを活用した提案型の営業スタイルが求められるようになったのだ。
 だが、仕事を続けるとなると、たくさんの壁にぶち当たる。結婚、出産、育児、転勤、介護など。人生のイベントと仕事の継続の二者択一ではなく、自分のキャリアを諦めなくてもよい仕組みや風土の醸成が必要になってきた。
 サントリーのダイバーシティは2010年に発進。まずは、会社を変える、意識を変えるために、経営トップが意気込みを示すことが大切だった。「経営課題宣言」を出し、11年にはダイバーシティ推進室を開設。時短従事者や営業女子など当事者を巻き込んで、小集団活動でいろんな課題を掘り起こし、施策につなげていった。同時にマネジメントや全社の風土改革にも着手した。
 ライフイベントをサポートするさまざまな制度は、基本的には法定の制度よりも少し手厚めの施策に踏み込み、できるだけ、会社を辞めなくて済むような取り組みを制度として用意している。
 例えば、キッズサポート休暇は、子供の入園、運動会、授業参観、急病などの際、年間5日まで有休扱いになる。
 育児ブランクを短くし、早期の復職を働き掛けるための施策では、つなぎベビーシッターサービスと病時・緊急時シッターサービスがあり、どちらも順調に利用が増えている。
 ただ、制度の利用に当たっては上司の理解が必要なため、育児をしながら働いている社員の上司に向け「理解度チェックリスト」を定期的に発信するなどして理解を促している。

<育児と両立の女性社員4割も>
 これらの効果もあって、サントリーでは昨年4月現在、全体の40%が育児と両立したワーキングマザー。特に30代後半(約67%)、40代前半(約75%)、40代後半(約55%)は高くなっている。男性も約半数は育児休暇を取得している。
 このように、仕組みや環境が整備されたが、これからも仕事を続けていくことができるだろうかと、自分が自分にブレーキを掛けてしまう実態はある。一歩を踏み出す自信が無い。そうした不安を乗り越えるための後押しが必要だ。  両立支援から「真の活躍推進」へとステージアップするための重点課題としては、①若手層を中心とした女性の意識変革・スキルアップ②会社・部門間格差③女性リーダーパイプラインの確立―が挙げられる。

<キャリアの道へ背中を押す>
 ①では、少し先を行く先輩女性から学ぶキャリアカフェなどを開き、自分の将来像を思い描くのに役立ててもらっている。一方、上司の行動変革を促すためにセミナーを開いている。
 ②では、営業部門は、家庭を持ちながら営業で働くための課題解決などについて、他業種も交えて話し合う「エイジョカレッジ」のほか、先輩らから自発的に学ぶ「ライフキャリアセミナー」を開いている。
 生産研究部門は、数が少ない「リケジョ」だけに、先輩や上司も数少ないが、キャリアカフェを通して中長期のキャリアのイメージを描いていく一方で、上司向けセミナーを開き、女性活躍に向けたマネジメントを知ることに力を入れている。
 女性マネジャーになることについて、「あんなハードな働き方はできない」「そこまでしてなりたくない」と、自分の可能性を閉ざしてしまう者もいる。そんな不安を取り除くには、今いる女性リーダーが生き生きと輝き、前向きに仕事をしている姿を見せることが必要だ。
 できないことに目を向けるより、自分が得意なことに目を向けてみるのも一つの考え方であり、肩の力を抜くことができる。結果として、将来の女性マネジャーたちの背中を押すことになる。
 ③では、女性マネジャー、役職経験者で構成する「女性リーダーフォーラム」を組織している。構成員自らが、自己研鑽やネットワークづくりを図り、女性活躍をさらに促進するための活動を企画・運営している。幹事団企画として2017年から始まった部署紹介フォーラム「BUSHOFO」には約200人の社員が参加し、ふだん接点のない部署との交流により、一人一人がキャリアを考えるきっかけになっている。

<自分らしく、を大切に>
 そのほか、グループ会社とのつながりを強めるため「SHINE」ネットワークとして情報発信している。2年に1回、世界中の女性リーダーが一堂に会して、情報交換する機会も設けている。
 サントリーの女性管理職比率は、2020年現在、11.0%。30年に30%にすることを目標にしている。  最後に一言。女性らしく、男性らしく、ではなく、自分らしくあり続けることを大切にすることが女性活躍につながるのではないか、と考えている。


光永 圭子(厚生労働省 雇用環境・均等局 雇用機会均等課 課長補佐)
『改正女性活躍推進法の概要と企業の取り組みについて』               

<行動計画策定義務の対象が拡大>
 2016年に施行された女性活躍推進法は、仕事と家庭生活の両立や女性管理職比率の改善をより推進するため、19年に一部を改正する法律が成立し、交付された。
 変更されたのは次の3点。
 ①一般事業主行動計画の策定義務の対象拡大
  企業の女性活躍に関する計画的な取り組みを促すため、一般事業主行動計画の策定及び自社の女性活躍に関する情報公表が義務づけられる対象を、常用労働者301人以上の事業主から101人以上の事業主へと拡大する。(22年4月1日施行)
 ②女性活躍に関する情報公表の強化
 常用労働者301人以上の事業主は、情報公表項目について⑴職業生活に関する機会の提供に関する実績⑵職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績―各区分から1項目以上公表することとする。情報公表に関する勧告に従わなかった場合に企業名を公表できる。(20年6月1日施行)
 ③特例認定制度「プラチナえるぼし」の創設
  女性の活躍推進に関する取り組みが特に優良な事業主に対して、インセンティブを強化するため、現行の「えるぼし認定」よりも水準の高い「プラチナえるぼし」認定を創設する。(20年6月1日施行)
 今回、行動計画の策定や情報公表義務の対象が常用労働者101人以上となったが、施行を来年4月とした。対象となる会社は、状況を把握し、計画をつくる準備をしていただきたい。

<状況把握と課題分析から>
 状況把握と課題分析をしっかり行えば、行動計画はおのずと出来るし、自分の会社に何が大事かが分かる。ぜひ時間を掛けてやっていただきたい。
 きっかけとして、勤続年数の男女差、採用した労働者に占める女性労働者の割合、管理職に占める女性労働者の割合、労働者の各月ごと平均残業時間数など労働時間状況―などを調べることから始めてはどうだろうか。 
 例えば、「求人したのに、女性の応募がない」「事務職の応募は多いが、営業や工場には少ない」などのケースで、どうしてそうなったのか、何が足りないのか、疑問を持つことが大切だ。勤続年数の男女差、「真ん中の年代がいない」などのアンバランスさ、女性管理者がほとんどいないなどの状況があれば、何か問題があるはずだと着目してほしい。
 きっちり調べることで、最初にやるべき課題が明確になり、それが行動計画、さらに数値目標につながっていく。女性活躍の切り口で取り組むこと自体が新鮮であり、まさに経営戦略になっていく。

<「プラチナえるぼし」を新設>
 「えるぼし認定」を取得するには①採用②継続就業③労働時間等の働き方④管理職比率⑤多様なキャリアコース―という五つの基準をクリアする必要がある。一つか二つ満たしたら「1ぼし」、三つか四つなら「2ぼし」、五つすべて満たしたら「3ぼし」となる。新たに加わった「プラチナえるぼし」は、えるぼし認定企業のうち、行動計画の目標達成や女性活躍推進の取り組み状況が特に優良であるなど、一定の要件を満たした場合に与えられる。
 今年3月末現在、えるぼし認定企業は計1301社で、内訳は「3ぼし」858社、「2ぼし」436社、「1ぼし」7社。「プラチナえるぼし」には13社が認定された。13社のうち6社は300人以下の努力義務の会社で、問題意識があれば、小さな会社でも取得できるということを示している。
 最後に、「女性の活躍推進企業データベース」について。女性活躍推進法に基づく行動計画と自社の女性活躍に関する情報を公表するためのウェブサイトで、他社の状況と見比べることができるし、何よりも自社のアピールができる。就活の学生や求職者には、女性活躍に熱心か、育児休暇など制度が整っているかなど、企業研究に適している。ぜひ活用いただきたい。


第2部 クロストーク 

まとめ、振り返りと質疑応答◇ 

第2部はクロストーク。第1部で登壇した講師3人に、日本経営倫理士協会(ACBEE)常務理事の北村和敏氏を加え、女性活躍推進の諸問題について、まとめ、 振り返りと質疑応答を行った。

♯「無意識の偏見」なくそう 

【Q】〖北村コロナ禍で一気に進んだテレワークですが、職場には不公平感も出ている。その緩和策は?
津村〗テレワークを推奨するなかで、職種によってはできない人もいて、不公平感が一部出ているのは事実。お互いの仕事を理解し合う環境づくりが大切だ。一方でテレワークで、家の環境、孤独感、ストレスなどで悩む人もいる。お互い理解しながら進めなければならない。
近藤〗テレワークのできない工場や営業部門には、経営トップがねぎらいの言葉を掛けている。伝えることで理解してもらっている。イントラネットや社内広報でエールを送っているが、簡単に解決できることではない。

【Q】北村育児休暇取得などについての考え方にジェネレーションギャップがある。いい施策はないか。
近藤〗ギャップは存在するものとして、上司の理解が大事。いま、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に気づくためのトレーニングしている。育休を取って、戻ってきてもらわないと仕事は回らない。周囲は度量の大きさを持っていかなくてはいけない。
津村〗上司が無意識な固定観念や価値観、成功事例を押しつけるのは違うと思う。いろんな世代の意見を聞いて、生産性を高めるために学び、長所を伸ばしていく企業風土にしていかなくてはいけない。
光永〗「こんな仕事は女性にはかわいそう」「育児休業明けだから、残業はまずい」など、思い込みや偏見は昔からあった。しかし、問題意識を表に出すようになり、隠れていたものが出てきた。問題点を整理することが女性活躍の第一歩。個人の問題と会社の問題をきちんと区別する必要があるが、それらの融合、接点を考えることが大事だ。
北村〗良かれと思って、違う価値観を押しつけると、お互いが不幸になっていく。そうならないようにしないといけない。

♯結婚、出産をどう乗り越えるか 

【Q】〖北村女性管理職比率について、日本は2020年までに30%の目標を掲げたが、結果は10.9%までしかいかなかった。アンケートを見ると「女性の意識が低い」「ロールモデルがいない」「女性が育っていない」などの回答が多い。入社したときから上に行くのを諦めている現実がある。入社1年目からモチベーションを上げる必要があるが、意識を変える好事例があれば、教えてほしい。
近藤〗最近の新人は、女性だからキャリアに差を付けられると考えてはいないと思う。そうは言いながら、女性は出産でいったん仕事を離れなければいけないので、それを踏まえて会社は職場に戻る環境や仕組みを整えている。
 キャリアチャレンジとしては、次の異動を考える入社4年目ぐらいで、自分がどんな仕事をしたいか気付きの場をつくっている。社内公募や海外留学は男女を問わずエントリーができる。
 ただ、結婚・出産どう乗り越えるかについては、わが社もやらなければいけないことはまだある。10年以内なら会社に戻ってこられるジョブリターン制度を導入するなど、課題や障壁を取り除くため所々で議論・検討をしながら対応している。
津村〗国内で6割という、元々女性社員の多い会社なので、女性管理職比率も高くなっている。フォンテーヌという女性用ウイッグのブランドがあるが、7割は女性。60歳以上がかなり多く、70歳で働いている人もいる。産休後に復職するのは風土であり、自然体。「お客様に笑顔をつくりたい」という経営ビジョンがあるので、「引き続き頑張ります」という女性が多い。昔からある環境だが、さらに整えていきたい。

【Q】視聴者「今回の法改正で、中小企業には義務化に懸念がある。罰則があるのは不安で迷惑だ」というコメントが寄せられているが。
光永〗やっていただきたいことは非常にシンプルで、自分の会社の中で女性労働者がどんな感じなのか、勤続年数、入社・配置の状況を調べてみてくださいということ。男性と比べてどうなのか把握し、何で同じになっていないのか、疑問が出てくれば、問題点があるので考えていきましょう、ということ。
 その際、数値目標を立てないと具体化は難しい。分析に時間が掛かるかもしれないが、活力ある会社にしていくために、それぞれの会社で真剣に議論してもらいたい。都道府県の労働局に相談してもらえばいいし、厚生労働省でもアドバイザーを派遣している。  罰則といっても、行政指導はさせていただくが、会社に不利にはならない。ご理解いただきたい。常用労働者301人以上の会社では98.9%が既に届を出している。それぞれの会社の身の丈でやってもらえればいい。
北村〗ミレニアル世代やZ世代が社会に出てきて、かなり価値観が変わってきた。こういうことを会社がやってないと、「どうなっているの」という声も出てきそう。やらされ感ではなく、経営戦略に入れていくことが必要だ。

【Q】〖近藤女性自身が自分のキャリアに一歩踏み出すことに線を引いている。どういうふうに乗り越えてきたのか。
光永〗厚生労働省は女性比率が高く、管理職になるのが当たり前の世界で、子育てしながら働くのが普通だった。働いていくことによって、一人の人間として、子や親に対して背中を見せられるという自負も大事だった。同期には、管理職になりたくないという者もいたが、私は、先輩たちが開いてきた道を私も通っていきたいと思ってやってきた。

♯トップからのメッセージで 

【Q】〖津村トップからのメッセージが大事だと思うが、具体的にどんな形でやっているのか。
近藤〗サントリーは創業家による経営。良くも悪くもオーナーの声は影響力がある。会長も社長も定期的にイントラネットメッセージを高い頻度で発信している。社員は、何を伝えたいか、その都度考えることになるが、心理的に距離の近さを感じることができる。

【Q】〖視聴者日本企業には横並びを良しとする風土がある。例えばテレワークをどのくらいの率でやるかについても、自分の所だけ先行できないというような。どうすれば前へ進めることができるのか。
津村〗私は、中間管理職へオンラインのビデオで方針をしっかり伝えることを心掛けている。テレワークの不公平感があるとすれば、執行役員会議や部署長会議で、理由をきちっと落とし、しっかり理解してもらうよう言い続けている。数値にとらわれるより、必要性に応じて決めたことを発信していくしかない。

【Q】〖北村男性の育児休暇が6月に制度化されたが、制度は、経営トップの言葉とともに意識を変える起爆剤となると思うが、どうか。
光永〗「女性活躍」と一口に言っても、やり方が分からなかったが、2016年に推進法が施行されたことによって、やり方が分かってきたのではないか。法律で枠組みを作ることで意識も変わる。そのためにはトップに動いてもらわなければ、近道にならない。この二つが融合することできっかけができ、加速化できるのではないか。

♯次の課題はインクルージョン 

【Q】〖視聴者現在の企業の多くはダイバーシティ初期の、多様性をいかに確保するかの段階で、次のインクルージョン(包摂)では、多様性を生かして組織化し戦力にしていくことだと思うが、現段階でインクルージョンとして、どんなことを描いているか。
近藤〗ダイバーシティがまだ十分でないなか、インクルージョンはまだ走り出したばかりだが、土壌はできてきた。あとはどうやって包摂していくかだ。サントリーでは今年から、マネジャーの行動評価項目として、人材育成が重んじられるようになった。多様性を生かしながら、いかにチームとして一体化させて、経営成果につなげていくかが問われるのだ。これが結果としてインクルージョンにつながっていくのではないか。
津村〗かつてはトップダウン経営で、一部のメンバーが意思決定していたが、経営失敗後は、国も人種も違う約7000人全員で共有し、ベクトルを合わせてやっていくことになった。海外の管理職にはLGBTの人もいるが、何の違和感も感じない。全員が成長しないと会社の成長はない、ワンチームだということが、風土的に染みついている。「アデランス大学」を9月以降スタートさせる予定で、CSRの責任者を校長に、ガバナンスやESG、SDGsなど幅広く取り上げ、多彩な講師を招いて、社員全員で学んでいきたい。
光永〗ダイバーシティやインクルージョンの概念は、ごく普通の会社には定着していない。日本の将来の労働力人口を考えたら、いろんな課題があるが、その一つが女性活躍であり、ダイバーシティだろう。そこから経営との融合を考えていかなくてはならない。スタートラインにも着いていない会社はたくさんあるが、向かうべき概念の共有から始まるのではないか。
北村〗ダイバーシティ経営は昨年の人事白書にあるように、短期間では答えは出ない。取り組みから5年以内では効果の実感は低く、ロングスパンで取り組むべきだ。個人的には、会社がありたい姿を共有しないとベクトルは一つにならないと思う。このシンポジウムも第2弾、第3弾と重ねていくうちにきっちりしたベクトルが見えていくのではないだろうか。


■編集後記■

 シンポジウム開催後の報告書発行は、ACBEEではほぼ毎回行っている。シンポジウがビジネス倫理・CSR関連の諸テーマに絞った専門性の高い活動だけに、レポートの報告書への関心とニーズは高い。特にシンポジウム開催日の夜、ACBEEホームページ「ニュース・ダイナミクス」で討議内容などダイジェスト版を速報、関係者に注目された。
 毎回のテーマがタイムリーで、パネリストの発言のニュース性や、公開資料が最新であることなども好評。勤務社へ持ち帰り有効活用されているようだ。
 コロナ下によりオンライン形式なので、首都圏外からの視聴も増えている。また今回、シンポ開催後の反響として、国のプラチナえるぼし制度への新規加入申し込みや、教育機関の自主研究グループによるパネリストK氏への講演依頼などもあった。経営倫理、女性活躍推進への積極的な取り組みの輪を、さらに拡げていきたい。 (千)